【前編】

以前の記事では,交通事故の被害者になった場合の流れ(弁護士介入のタイミング)についてご説明しました。

 

この交通事故が,勤務中に起きた場合,労働者災害補償保険法(労災保険法)に基づく労働保険給付(いわゆる「労災」,「労災保険」のことです。)を受けられる場合があります。

 

そこで,今回と次回の記事では,この「労災保険」と交通事故の関係について,交通事故の被害者の方の視点からご説明します。

 

目次

1 労災保険とは

⑴ はじめに

⑵ 労災保険を受けることができる場合

⑶ 労災保険の主な内容-交通事故の主な損害との対応関係

(以上,前編の記事)

2 交通事故と労災保険

3 特別支給金制度

4 おわりに

(以上,後編の記事)

 

1 労災保険とは

⑴ はじめに

お仕事をされている方が労働中にあう事故・労働災害は,19世紀の産業革命・工業社会化の中で,その質や量とともに飛躍的に増え続け,大きな社会問題となりました。

しかしながら,そのような労働災害により被害を被ったお仕事をされている方が,企業などの雇い主に対し,法的な救済を求めるためには,大きな壁が立ちはだかることになりました。

法的な救済手段である不法行為に訴えるためには,労働災害を招いたことについて,雇い主の故意・過失などを裁判の場で厳密に証明しなければならなかったのです(「過失責任主義」といいます。)。

このような過失責任主義という大きな壁に直面したお仕事をされている方を労働災害から保護するために,ヨーロッパの国々では,雇い主の故意・過失を問わない,無過失責任の原則に基づく労災補償制度が発達し,我が国においても,第2次世界大戦後の昭和22年(1947年)4月7日に労災保険法が公布され,労災保険制度がはじまることとなりました。

 

⑵ 労災保険を受けることができる場合

では,このように発展してきた労災保険は,どのような場合に受けることができるのでしょうか

労災保険法には,労災保険を受けることができる場合について,次のように書かれています。

労働者の業務上の負傷,疾病,障害又は死亡(以下「業務災害」という。)に関する保険給付(労災保険法第7条第1項第1号)

いかにも法律の条文らしい堅苦しい表現ですが,要するに,「社会一般の人から見たときに,お仕事をされている方が怪我を負ったときに,その怪我が仕事上負ったものといえるかどうか」が労災保険を受けることができるか否かの基準となるのです。

この条文や基準をみていただければ,労災保険が,さきほどの無過失責任原則による制度,すなわち,雇い主の故意・過失を問わず,仕事中であれば補償を受けることができる制度であることがよくお分かりいただけるのではないかと思います。

また,労災保険では,受けることができる労災保険の内容が制限されることはありますが,お仕事をされている方に過失がある場合でも,業務上の災害であるか否かの認定に影響することはありません

加えて,このような業務上の災害のほかに,通勤中に負った怪我についても,労災保険を受けることができる場合があります(通勤災害。労災保険法第7条第1項第2号)。

 

⑶ 労災保険の主な内容-交通事故の主な損害との対応関係

労災保険では,お仕事で怪我などをされたお仕事をされている方を保護するために,様々な給付内容が書かれていますが(労災保険法第12条の8),その主な内容を交通事故の主な損害との対応関係で整理すると,次のとおりとなります。

 【対応関係図】

労災保険の主な給付 交通事故の主な損害
療養補償給付 治療費
休業補償給付 休業損害
障害補償給付 後遺障害による逸失利益
遺族補償給付 死亡による逸失利益

 

次回は,この労災と交通事故の関係をより掘り下げて解説をしていきます。

労災の仕様など交通事故に関する不安な点がございましたら丁寧にご説明をさせて頂きますので,まずはお気軽にお問合せください。

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