「使っていない車を友人に貸したところ、友人が事故を起こし、被害者に怪我をさせてしまいました。たまたまその車の保険が切れており、被害者から請求を受けています。事故を起こした訳ではない車両所有者の私も責任を負うのでしょうか。」

「レンタカーに轢かれて怪我をしました。運転者だけではなく、車両の所有者であるレンタカー業者にも請求をしたいです。可能でしょうか。」

「マイカー通勤をしている車両に轢かれて怪我をしました。その車は無保険だったので、会社に運行供用者責任を請求したいです。可能でしょうか。」

 

交通事故は、原則として、加害者である運転者と被害者との間で損害賠償の協議が行われます。
もっとも、前記のように、加害者である運転者が運転していた車両の所有者が運転者以外の方である場合もあります。
このように加害者である運転者以外の所有者に対しても損害賠償請求を出来る仕組みがあり、これが運行供用者責任です。

このコラムでは、どのような場合に運行供用者責任を負うのか、運行供用者責任を負った場合に被害者に対して賠償金を支払った者は求償請求ができるのか、その法的根拠はどのようなものかについて、解説します。

 

【目次】
1 運行供用者責任とは?
2 運行供用者責任が認められるための要件
3 運行供用者性が問題となる具体例と判断の傾向
4 運行供用者責任を求める際の注意点(人身損害限定の責任)
5 運行供用者責任と求償請求(求償請求が認められる法的根拠)
6 求償請求できる場合の認められる額
7 交通事故問題の当事務所の弁護士費用
8 運行供用者責任が絡む交通事故を弁護士に依頼するメリット



1 運行供用者責任とは? 

運行供用者責任とは、自動車賠償保障法(通称「自賠法」)3条に規定されている責任をいいます。自賠責法3条は次のとおり規定しております。

自賠責法(条文内の下線と①~④の番号は筆者記載)
(自動車損害賠償責任)
第3条 自己のために自動車を運行の用に供する者(※①)は、その運行(※②)によつて(※③)他人(※④)の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。
ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。



2 運行供用者責任が認められるための要件

前記の条文を分解すると、要するに運行供用者責任が認められるためには、次の要件が必要となります。すなわち、①運行供用者性、②運行性、③運行起因性、④他人性です。ここでは特に問題となるケースが多い、運行供用者性についてみていきます。
【運行供用者性】
実務上、この要件は「運行支配性」があるかどうかという点を中心に判断されています。
運行支配性とは、自動車の運行という危険を有するものを支配していることによる危険責任をいいます。外形的・客観的・事実上、自動車の運行について指示・制御をなしうべき地位があるかどうかによって判断されます。



3 運行供用者性が問題となる具体例と判断の傾向

典型的な事例でいうと、レンタカー業者、合意に基づき車両を貸した貸主(予定された貸与期間内での事故)は運行供用者性を肯定する傾向が強いです。
他方、車両を貸したものの期間を過ぎても返還されなかった車両の所有者、適切な管理をしていたにもかかわらず盗難された車両の所有者、リース会社や還付販売に伴う留保所有権者は否定される傾向が強いです。
マイカー通勤の際に使用者に運行供用者責任を問えるかどうかは、事案により結論が分かれています。
個別の事情により、肯定・否定は分かれるところですので、まずはお気軽にご相談ください。

 

4 運行供用者責任を求める際の注意点(人身損害限定の責任)

被害者の立場で運行供用者責任を追及する場合、「生命又は身体を害したとき」に限って認められる請求権であることは注意が必要です。
物損については、運行供用者責任では請求することはできないため、ケースによっては別の理論構成(共同不法行為等)で請求していく必要があります。

 

5 運行供用者責任と求償請求(求償請求が認められる法的根拠)

求償請求の問題とは、例えば、冒頭の事例で記載した「使っていない車を友人に貸したところ、友人が事故を起こし、被害者に怪我をさせてしまいました。たまたまその車の保険が切れており、被害者から請求を受けています。事故を起こした訳ではない車両所有者の私も責任を負うのでしょうか。」というケースで、運行共有者責任により車両所有者が被害者に100万円の損害を賠償したとします。当然、車両所有者としては、運転者に対して、支払った賠償金の一部を負担してもらいたいと思うはずです。
このように、一定の法律上の理由で被った財産の減少(=前記事例でいえば被害者に賠償した100万円)について、特定の者に対してその返還を求める権利を求償請求権といいます。

運行供用者責任を負った前記事例の車両所有者は、運転者に対して、求償請求ができると考えられております。
その根拠としては、理論構成はいくつかあり得るところと思われますが、一つは、運転者も車両所有者と共に運行供用者の地位にあるため、車両所有者と運転者はいわゆる不真正連帯債務(=多数の債務者が同一の内容の給付について全部を履行すべき義務を負い、しかも債務者のうちの一人が弁済をすれば全部の債務者が債務を免かれる債務)の関係に立つと考えられているため(最高裁昭和48年1月30日判決・集民108号119頁参照)、不真正連帯債務者の一方が被害者に損害を賠償した場合は、他方の不真正連帯債務者に求償できると一般的に解されているところによります。もっとも、トラック会社と運転手のような使用者・被用者の関係にある場合は、求償がそもそも可能かどうか、可能としても相当程度請求は制限される可能性がある等の問題は別途生じます。

使用者と被用者の関係にあるようなケースでは、自賠責法4条にて、運行供用者責任に関しては民法が適用されるものとされており、使用者責任の求償に関する民法715条3項を類推適用されると解するとした裁判例もあります(福岡高判昭和47年8月17日交民5巻4号919頁参照)。この理論構成によっても、求償の可否、程度の問題は別途生じる場合はあり得ると考えられます。

 

6 求償請求できる場合の認められる額

いくら求償できるかという問題は、まさにケースバイケースで一概に基準を示すことはできません。
たとえば、車両所有者=運行供用者がトラックの運送業者で運転者が事故を起こしたケースなどは、運行供用者は運転者によって利益を得る立場であり、雇用契約上の使用者という立場でもあるため、これらの事情等も考慮し、運転者に対する求償請求は相当程度限定的になる傾向があります。
他方、何ら利益を上げる立場にない運行供用者の場合は、事故への運行供用者の起因の程度、事故状況、車両を運転者が使用するに至る経緯、任意保険加入の有無等、諸般の事情を考慮し、個別に検討する必要があります。
そのため、具体的な事案をお伺いし、類似の裁判例等も調査しながら検討していくこととなります。

 

7 交通事故問題の当事務所の弁護士費用

HPの料金表をご参照ください。

交通事故

運行供用者責任が問題となるケースでは、当事者が複数にのぼるケースも少なくないため、ご不明な点等ございましたらお気軽にお尋ねください。

 

8 運行供用者責任が絡む交通事故を弁護士に依頼するメリット

運行供用者責任は、そもそも認められるかどうかという点からして交通事故事案のなかでも難易度の高い論点です。
また、認められたとして、どの程度、車両所有者あるいは運転者に求償できるのかというのは個別の裁判例の調査検討を要する場合も少なくない、非常に難しい論点です。
そもそも運行供用者責任以外の責任追及が可能かどうかという検討も含め専門家の助言が特に必要な事例といえますので、まずはお気軽に弁護士までご連絡いただければと思います。

 

お電話でのお問い合わせ
平日9時~18時で弁護士が電話対応
※初回ご来所相談30分無料
☎︎ 03-5875-6124