交通事故で怪我をして病院にかかったとき、健康保険(第三者行為による傷病届という書類を健康保険組合等に事前に提出することは必要)を使えば窓口負担は3割(通常の自己負担分)で済みます。
ところが「後で保険組合が相手の自賠責(じばいせき)保険にお金を請求する(求償する)と聞いた。自分はもう自賠責保険から補償をもらえなくなるの?」と不安になる方も少なくありません。特にこの問題は、いわゆる加害者側(過失割合が大きい側)として事故を起こしてしまい、加害者側ではあるもののお怪我の程度は小さくないという場合に問題になるケースが多いです。
結論から言えば、このように「健康保険側からの求償請求」と「被害者からの自賠責保険への直接請求」が競合し、両請求の合計金額が自賠責保険の枠内である120万円を超えた場合は、「被害者(あなた)が優先して、健康保険組合からの求償により引かれる前の自賠責保険の枠内で補償を受けることができます」。
以下では、できるだけ専門用語を避けながら仕組みと手続のポイントをまとめます。
1 健康保険と自賠責はどのような関係か
2 結論=最高裁が判断した「被害者請求優先」
3 過失割合が大きい事案においてはどのように手続を進めるべきか?3ステップ
4 全ての事案において、健康保険を使用した治療→被害者請求という順を辿るべきか
5 交通事故(加害者側、被害者側)の弁護士費用
6 まとめ
1 健康保険と自賠責はどのような関係か
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請求主体 (だれが請求するか) |
請求目的 (何のため?) |
健康保険組合等の請求 (求償請求) |
健康保険組合 |
被害者治療費7割分を立て替えた分を取り戻すため |
あなたの請求 (直接請求・被害者請求) |
あなた本人 |
被害者自己負担3割分や慰謝料・休業損害などを受け取るため |
2 結論=最高裁が判断した「被害者請求優先」
どちらも相手方の自賠責保険に向けた請求なので、120万円(=怪我の場合の自賠責保険の枠)中で“取り合い”になりそうです。
最三小判平成20年2月19日・民集62巻2号534頁(老人保健法代位求償事件)では、お年寄りが健康保険を使ったケースで、自賠責保険に対する健康保険からの請求と被害者からの直接請求が競合した事案において「まず被害者に払うべき」と判断しました。
なお、本コラムからは直接は外れますが、最一小判平成30年9月27日・民集72巻4号432頁(労災保険代位求償事件)では、労災保険を使ったケースで、国からの請求と被害者からの直接請求が競合したケースにおいても「まず被害者に払うべき」と判断しました。
つまり、健康保険や労災による支払い及び相手方自賠責保険への求償請求が先行していたとしても、上述の判例に基づけば、被害者の自賠責保険の枠内における取り分が削られることはありません。
3 過失割合が大きい事案においてはどのように手続を進めるべきか?3ステップ
① 病院に「第三者行為による傷病届」を提出
これで健康保険を使用し、3割負担で治療を受けることができます。
健康保険を使用した場合は、健康保険で負担される7割分については、過失相殺されません。
② 自賠責へ被害者請求
診断書、診療報酬明細書(自己負担をした3割分の治療費について)、休業損害証明などの必要書類を揃えて、相手方自賠責保険に対し被害者請求をします。
この段階で、無用なトラブルを生じさせない観点から、健康保険組合等に一言連絡を入れることをお勧めします。「相手方自賠責へ被害者請求をします。」と事前に知らせておくと、健康保険側がタイミング等を調整してくれることが多く、無用なトラブルを防げます。
③ 自賠責保険から支払いを受け、過失割合によっては、相手方の任意保険会社等に請求をする。
4 全ての事案において、健康保険を使用した治療→被害者請求という順を辿るべきか
このような手順を辿る事案は、むしろ少数です。
多くの交通事故は、相手方が任意保険に加入しており、被害者側の過失も大きくはありません。
そのような事案においては、通常通り、加害者側の任意保険会社に治療を一括対応してもらい、一定期間通院治療をしたうえで、必要に応じて後遺障害の申請をし、賠償を受ければ良いです。
もっとも、事案によっては、過失や事故と怪我の因果関係に争いがある場合もあります。そのような事案では、任意保険会社が一括対応(治療を相手方保険会社が病院窓口に直接支払ってくれる等の対応)を拒否することもあり得ます。そもそも、相手方が任意保険に加入をしていない場合もあります。さらには、十分な治療が完了していないにもかかわらず、治療費の対応を打ち切られる場合もあります。
このような事案では、第三者行為による傷病届を提出し、3割負担で治療を受け、被害者請求を行うことが視野に入ってきます。
その他に仮に相手方が任意保険に加入しており、一括対応も拒否していない事案であったとしても過失割合が大きい場合は、過失の影響を可能な限り縮減する観点から、敢えて健康保険を先行使用する場合もあります。
これに加え、労災が絡んでくる事案や、被害者自身の保険(人身傷害保険)を先行利用するべき事案等、無数のパターンがあり得、交通事故はどの保険をどのような順序で使用するかで最終手取額が変わる場合もあるため、一概にすべての交通事故事案の黄金パターンということにはなりません。
個別の事案ごとに最適解を検討する必要がございます。
5 交通事故(加害者側、被害者側)の弁護士費用
当事務所では、被害者側はもちろん、過失割合が大きいと言われている加害者側の事案も取り扱っております。
費用は以下のホームページ記載のとおりとなりますので、まずはお気軽にお見積希望とご連絡ください。
交通事故
6 まとめ
交通事故事案で健康保険を使用しても(第三者行為による傷病届の提出は必要ですが)大丈夫です。
万が一、健康保険側の相手方自賠責保険に対する求償請求と被害者からの自賠責保険に対する直接請求が競合したとしても、被害者からの直接請求が優先されます。
交通事故は、複数の関係者が登場し、何に対してどのように請求をすれば良いのか非常に煩雑で難しい問題がございます。弁護士であっても保険請求の順序に頭を悩ませる事案があるため、被害者の方が瞬時に適切な保険の請求を行うことは困難です。
相手方本人や相手方保険会社、警察等から加害者側と言われていたとしても、お怪我をしていれば、被害補填は意外にもできるケースがあるものです。
まずは、交通事故にあってお困りの場合は、お気軽にお電話ください。
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