「内部通報制度はあるけれど、ほとんど使われない」——そんな企業は珍しくありません。
しかし、令和8年末までに施行される改正公益通報者保護法(令和7年法律第62号)は、これまでの形骸化した内部通報制度を大きく変える内容となっており、違反すれば、最大3000万円の罰金や刑事罰の対象となる可能性もあります。企業にとっては、単なる制度改正ではなく、企業のコンプライアンス体制を根本から見直す契機となるものです。
本コラムでは、改正法のポイントと、施行までに企業が取るべき準備について解説します。
【目次】
1 公益通報者保護法改正のポイント
2 企業がとるべき準備
3 当事務所の弁護士費用について
4 おわりに
1 公益通報者保護法改正のポイント
⑴ 体制整備義務の強化と罰則化
改正法では、従業員が300人を超える企業に対し、公益通報に対応するための専任担当者の選任が義務化されました(法第11条第1項)。これにより、担当者不在や制度の形骸化が防止され、通報への対応が迅速かつ的確に行われることが期待されます。
さらに、行政は必要に応じて命令権(法第15条の2)や立入検査権(法第16条)
を行使できるようになり、違反企業に対しては30万円以下の罰金(法第21条第2項)が科される規定も導入されています。制度運用の実効性を確保するための強力な仕組みです。
⑵ 通報者保護の対象拡大
従来は、通報者として保護されるのは自社の従業員等に限られていましたが、改正後はフリーランス、業務委託契約を結んでいる者、退職後1年以内の者も保護対象となります(法第2条第1項第3号、第4号)。これにより、サプライチェーン全体で発生する不正や違法行為についても、通報者が安心して情報を提供できる環境が整備されます。外部委託先の不正も企業の信用リスクに直結する時代において、この拡大は非常に重要です。
⑶ 通報妨害・探索行為の禁止
企業が通報者に「通報しないことに同意させる」行為や、「誰が通報したのかを突き止めようとする」いわゆる探索行為は、改正法で明確に禁止されました(法第11条の2、11条の3)。これらの行為は、通報制度の信頼性を大きく損ない、潜在的な不正の発覚を妨げる原因となります。今後はこうした妨害行為があった場合、企業にとって重大な法的リスクとなります。
⑷ 不利益取扱いへの刑事罰導入
改正法では、公益通報を理由として通報者に対して解雇・降格・減給といった不利益取扱いを行うことを禁止し、その違反に刑事罰を科すことが定められました。個人に対しては6か月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金(法第21条第1項)、法人に対しては最大3000万円以下の罰金が適用されます(法第23条第1項)。また、「通報後1年以内」に行われた不利益取扱いは違法と推定されるため(法第3条第3項)、企業は特にこの期間の人事対応に細心の注意を払う必要があります。
2 企業がとるべき準備
⑴ まず、内部規程の見直しが必要です。対象者の範囲拡大や禁止行為の明記を含め、改正法に準拠した規程を整備します。
⑵ 次に、担当者の選任と研修です。法改正の趣旨や条文を理解し、通報受付から調査、是正までのフローを確実に運用できるようにします。
⑶ 周知・教育の強化も重要です。従業員だけでなく、外部委託先や退職者にも制度の存在と利用方法を周知しなければなりません。
⑷ さらに、外部窓口の活用検討も有効です。匿名性を担保し、専門的な判断が可能な弁護士や第三者機関を通報窓口に据えることで、制度の信頼性が高まります。
⑸ 最後に、制度運用レビューの定期実施です。少なくとも年1回は制度の利用状況や改善点を分析し、PDCAサイクルを回すことが望まれます。
3 当事務所の弁護士費用について
企業顧問に関する当事務所の弁護士費用は、以下のリンクからご確認いただけます。
公益通報の体制整備など、具体的な対応を弁護士が実施する場合は、一般の顧問料に加え、対応内容に応じた別途の費用を頂戴し、実施することとなります。そちらの額は、会社の構成員の規模などによっても変動しますので、ご事情をお伺いしたうえで個別にお見積もりを取らせていただきます。
https://kl-o.jp/corporateadvisor/#companycost
4 おわりに
改正公益通報者保護法は、企業の自浄能力を高めるための重要な法改正です。
企業法務担当者なども読者となっている法律雑誌においても「公益通報者保護制度の実効性向上に向けて-2025年公益通報者保護法改正」(ジュリスト2025年8月号(No.1613))といった特集記事が掲載されており、ホットトピックともいえます。このような法改正・コンプライアンスを巡る社会情勢の変化を踏まえ、単なる法令遵守ではなく、信頼される組織文化の構築を目的として制度を整備することが、長期的な企業価値の向上につながります。
施行までの限られた期間で、計画的かつ確実に準備を進めることが重要です。
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