「裁判で子の引渡しが命じられたのに相手方がこれに応じない。」

こういったご相談をお受けするケースがございます。
今回の記事では、子の引渡しの強制執行について解説していきます。

【目次】
1 子の引渡しの強制執行とは
2 直接強制の申立て要件
3 直接強制の具体的な手続
4 威力行使の禁止、子の心身への配慮義務
5 おわりに


1 子の引渡しの強制執行とは

夫婦の別居等に伴ってどちらかの親が子を連れて別居を始めた場合、もう一方の親が子と同居している親に対し、子の引渡し・監護者の指定を求めて審判等の申立てをすることがあります。そして、家庭裁判所において、判決や審判(保全処分も含む。)、調停によって子の引渡しが命じられ、この裁判が確定した場合、相手方は子を引き渡す必要があります。

しかしながら、夫婦のこれまでの争いなどを背景事情として、子の引渡しに応じない相手方もおり、その場合は確定した判決、審判(保全処分も含む。)、調停に基づき、裁判所に対し子の引渡しの強制執行を申し立て、親権又は監護権の行使に対する妨害の排除を求めることになります。

子の引渡しの強制執行については、民事執行法に次の二つが定められており、(間接強制は功を奏しないこともあるため)実務上は直接強制の申立てに至ることがあります。 

 

強制執行のおおまかな内容

間接強制

(民事執行法第172条第1項)

子の引渡しを履行するまで1日当たり一定額の間接強制金の支払いを命じるもの

直接強制

(民事執行法第174条第1項)

執行官が執行場所に赴き説得等により子の監護を解いて子の引渡しを実現するもの

 

2 直接強制の申立て要件

直接強制の申立てが認められるためには、次の要件のいずれかを満たす必要があります(民事執行法第174条第2項)。間接強制を一応原則としつつも(要件①)、間接強制を経ることなく直接強制を認める場合もあり得るものです(要件②、要件③)。

①間接強制決定が確定した日から2週間を経過したとき
②間接強制を実施しても子の監護を解く見込みがあるとは認められないとき
③子の急迫の危険を防止するために直ちに強制執行をする必要があるとき

 

3 直接強制の具体的な手続

⑴ 直接強制の具体的な手続は、おおよそ次のとおりです。

①執行官に対する事前相談(執行計画の立案)

②裁判所に対する直接強制の申立て

③裁判所による債務者(子の引渡義務者)に対する審尋

④裁判所による直接強制決定
(執行官に対する子の監護を解くために必要な行為をすべき旨を命じる決定)

⑤執行官による執行場所における説得等による引渡の実施


⑵ この具体的な手続のうち、特に重要となるのが①の執行官に対する事前相談(執行計画の立案)です。⑤の引渡の実施が成功するためには、子の引渡義務者の抵抗を避けるなどのため、⑴執行場所をどうするか(原則:債務者の住居その他債務者の占有する場所)、⑵執行の日時、⑶引渡しを受ける親の当日の待機場所、当日の動き、⑷当日の説得方法などにつき、子の心身に配慮して事前に計画しておくことが必要となるからです。

また、執行計画や当日の段取りの準備が不十分であることなどにより、引渡実施を受けるべき場所において子に出会わない、子の監護を解くことが出来ない、引渡を受ける側が執行官の指示に従わないなどの場合は、執行不能と判断されてしまうこともあります(民事執行規則第163条)。

 

4 威力行使の禁止、子の心身への配慮義務

その他、民事執行法には、子に対する威力行使の禁止(民事執行法第175条第8項)、強制執行が子の心身に有害な影響を及ぼさないようにすべき配慮義務(民事執行法第176条)が規定されています。

 

5 おわりに

子の引渡しを命じる裁判が確定しているにもかかわらず子の引渡しの強制執行にまで至るケースは、夫婦の葛藤などから解決が難しいケースも多く、実際に強制執行に踏み切る場合でも執行不能等を避け子の引渡しを実現するためには、綿密な執行計画の立案が必要になるなどハードルが高いのが実情です。子の引渡しの強制執行の前の、子の引渡し・監護者の指定を求めての審判等の申立てを含めて、まずは弁護士にお気軽にご相談ください。

※子の引渡しの強制執行を含む弁護士費用はこちらをご参照ください。

 https://kl-o.jp/divorce/#00002

 

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