最終更新:2026年5月14日
交通事故が「勤務中」や「通勤中」に起きた場合、具体的にどのような手続を採るべきかご存じでしょうか。
このような場合、加害者(が加入する保険会社)への損害賠償請求とは別に、労働者災害補償保険法(労災保険法)に基づく保険給付(いわゆる「労災補償」)を受けられる可能性があります。
しかし、多くの方は
「労災と交通事故の損害賠償、両方もらえるの?」
「手続が複雑そう…」
といった疑問や不安をお持ちになるかと思います。
そこで、この記事では、勤務中・通勤中の交通事故に遭われた被害者の方の視点から、労災保険の仕組みと、損害賠償請求との関係について、ポイントを絞って分かりやすく解説します。
1 そもそも労災保険とは?
⑴ 会社の責任を問わず補償を受けられる制度
⑵ 労災保険の対象となるケース(業務災害・通勤災害)
2 労災保険から受けられる主な補償内容
3 交通事故で労災保険を使うべき?損害賠償請求との関係(二重取りはできない)
【重要】労災保険を使う最大のメリット「特別支給金」
4 よくある質問(FAQ)
Q1 任意保険と労災、どちらを先に請求すべき?
Q2 通勤中の交通事故も労災の対象ですか?
Q3 会社が労災申請に協力してくれないときは?
Q4 申請の期限はありますか?
5 仕事中の交通事故でお悩みなら、弁護士にご相談を
1 そもそも労災保険とは?
⑴ 会社の責任を問わず補償を受けられる制度
労災保険とは、簡単に言えば、「仕事が原因で労働者が怪我、病気、死亡した場合に、国が補償をしてくれる制度」です。
かつては、仕事中の事故で労働者が救済を求めるには、会社(雇い主)に「故意」や「過失」があったことを裁判で厳密に証明する必要がありました。これは労働者にとって非常に高いハードルでした。
このような状況から労働者を保護するため、会社の過失の有無にかかわらず、仕事に起因する災害であれば迅速に補償を受けられる「無過失責任」の考え方に基づく労災保険制度作られました(1947年に労災保険法が交付されました。)。
この制度の大きな特徴は、たとえご自身に多少の過失があったとしても、仕事との関連性が認められれば、原則として補償が受けられる点です。
⑵ 労災保険の対象となるケース(業務災害・通勤災害)
労災保険が対象とする災害は、主に次の2つです。
- 業務災害:業務上の負傷、疾病、障害又は死亡のことです。(労災保険法7条1項1号)
- 例:社用車で営業先に向かう途中の事故、工事現場での作業中の事故など。
- 通勤災害:通勤中に被った負傷、疾病、障害又は死亡のことです。(通勤災害・同条1項3号)
- 例:自宅から会社へ向かう電車内で転倒して負った怪我、会社から取引先へ直行する途中の事故など。
法律の条文では堅苦しく書かれていますが、要するに「その怪我が、客観的に見て仕事や通勤と関係があるか」が判断基準となります。
2 労災保険から受けられる主な補償内容
労災保険には様々な給付がありますが、交通事故に関連する主なものを、交通事故の損害項目と対応させて整理すると、以下のようになります。
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労災保険の主な給付 |
交通事故の主な損害 |
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療養(補償)給付 |
治療費、入院費など |
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休業(補償)給付 |
休業損害(仕事を休んだことによる減収) |
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障害(補償)給付 |
後遺障害逸失利益(後遺障害による将来の減収) |
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遺族(補償)給付 |
死亡逸失利益(死亡による将来の収入の喪失) |
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葬祭料(葬祭給付) |
葬儀費用 |
※業務災害の場合は「〇〇補償給付」、通勤災害の場合は「〇〇給付」という名称になりますが、給付内容は基本的に同じです。
3 交通事故で労災保険を使うべき?損害賠償請求との関係(二重取りはできない)
社用車を運転中の際発生した事故のように、業務災害と交通事故の両方の側面を持つ場合、被害者の方は、労働基準監督署長に対して労災保険の給付を請求することも、加害者に対して損害賠償を請求することもできます。
ただし、ここで注意が必要です。例えば、労災保険から「休業補償給付」を受け取り、同時期について加害者側からも「休業損害」を受け取る、といった損害の二重取りはできません。
同じ性質の損害については、どちらか一方から支払いを受けた分、もう一方からの支払額が調整される仕組みになっています(これを「併給調整」といいます)。
【重要】労災保険を使う最大のメリット「特別支給金」
「二重取りができないなら、労災保険を使う意味はないのでは?」と思われるもしれません。
しかし、それは大きな誤解です。
労災保険の申請には、被害者の方にとって非常に大きなメリットがあります。
それが「特別支給金」(労働者災害補償保険特別支給金支給規則3条・4条)の存在です。
特別支給金は、本来の労災保険給付とは別に、労働者の社会復帰を促進する目的で支給されるものです。主なものに以下の種類があります。
• 休業特別支給金:休業(補償)給付とは別に、休業1日につき給付基礎日額(≒平均賃金)の20%が支給されます。
• 障害特別支給金:認定された後遺障害等級に応じて、定められた一時金が支給されます。
• 障害特別年金:後遺障害等級が第1級から第7級に該当する場合、障害(補償)年金とは別に支給されます。
そして、最も重要なポイントは、この特別支給金は損害賠償との「併給調整」の対象にならないという最高裁判例(最判平成8年2月23日・民集50巻2号249頁)が存在することです。
つまり、加害者側から損害賠償金(休業損害や逸失利益など)を満額受け取ったとしても、特別支給金はそれとは全く別に、全額を受け取ることができるのです。
このメリットを確実に享受するためにも、業務中・通勤中の交通事故に遭われた場合は、必ず労災保険の申請を検討すべきです。
4 よくある質問(FAQ)
Q1:任意保険と労災、どちらを先に請求すべき?
A:事案により最適手順は異なりますが、併給調整を前提に、治療・休業の実態を裏づける資料を整えながら労災の申請も早めに進めると、特別支給金を含むトータルの受取額・時期の面で有利になることがあります。
Q2:通勤中の交通事故も労災の対象ですか?
A:通勤災害として給付対象になる可能性があります(労災保険法7条1項3号)。
Q3:会社が労災申請に協力してくれないときは?
A:事業主証明が得られない場合でも、労基署が実態を確認する運用があり得ます。
Q4:申請の期限はありますか?
A:給付ごとに時効・期限の定めがあり得ます。遅延は不利益につながるため、できるだけ早期に相談してください。
Q5:労災で慰謝料を請求できますか。
A:労災では、慰謝料に対応する支給はありません。慰謝料は相手方に直接請求を行うこととなります。
5 仕事中の交通事故でお悩みなら、弁護士にご相談を
ここまでご説明した以外にも、労災保険と交通事故の関係には、
- 慰謝料は労災保険からは支払われないため、加害者への請求が必要になる
- 被害者側の過失割合が大きい事故では、過失分が減額(過失相殺)されない労災保険の利用が有利になる場合がある
- 自賠責保険の障害慰謝料の限度額(120万円)を超えて治療が必要な場合、労災保険への切り替えが有効
など、多くの法律上・実務上の論点が存在します。
「仕事中に交通事故に遭ったけれど、何から手をつければいいか分からない」「会社が労災申請に協力的でない」
といったお悩みをお持ちの場合は、ぜひ一度、法律の専門家である弁護士にご相談ください。
被害者の方にとって最善の解決策となるよう、丁寧にご説明し、サポートさせていただきます。まずはお気軽にお問い合わせください。
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