隣地の人同士で,土地と土地の境界線がどこであるかトラブルになるケースがあります。特に,相続をして建物を立て直すときや売却するときなどにトラブルになるケースが多くございます。

本稿では,そのようなトラブルに対して,どのような対処方法があるのかをご説明いたします。

目次


1 前提知識
(1)なぜ筆界を特定する必要があるのか
(2)筆界(境界)と所有権界(所有権の境界)
(3)筆界の確定と地積に関する更正の登記等

2 筆界を確定する方法
(1)筆界特定制度
(2)境界確定の訴え

1 前提知識

 ⑴ なぜ筆界を特定する必要があるのか

不動産を売却する際には,どの範囲の不動産を売却するのかを特定する必要があります。
その特定方法としては,①公簿(不動産登記簿謄本の地積)を基準に特定する方法と,②実測(実際の面積)を基準に特定する方法の二つの方法がございます。

それぞれ,公簿売買,実測売買等と呼ばれます。

公簿売買では,売主と買主は,売買の対象を,公簿表記面積とするので,その面積が実際の測量結果とずれていたとしても,原則として売買代金の変更等の問題は生じないこととなります。

実測売買では,売主と買主は,売買の対象を,実際に測量によって確認された面積とします。通常,売主は,測量の結果得られた面積と登記簿謄本記載面積との間に差異が生じたとしても,地積更正登記は行いません。

理想は,公簿記載の地積が実測の面積と一致することです。

そのため,不動産売買に先立って,面積を測量し,公簿上の地積と不一致があった場合に,修正をするべく,筆界を定める手続を行うこととなります。

 ⑵ 筆界(境界)と所有権界(所有権の境界)

まず,この境界トラブルを正確に理解するためには,筆界と所有権界という2つの概念があることを理解する必要があります。

① 筆界とは,「公法上の境界」とも呼ばれ,土地が登記された際にその土地の範囲を区画するものとして定められた線をいい,所有者同士の合意などによって変更することはできません。

② 所有権界とは,「私法上の境界」とも呼ばれ,所有権の範囲を画する線をいい,所有者間の合意などによって,変更することができます。

この筆界と所有権界は一致することが多いのですが,所有権界は所有者同士の合意によりその範囲を変更できることや,隣地の一部をいわゆる時効取得することがあるなどといった事情により,所有権の範囲が変動する場合がございます。

他方,筆界は,このような事情があったとしても変動することはございません。

このように,所有権界の範囲の変動に応じて,自動的に筆界も変動するといった関係にないことから,分筆登記手続や所有権移登記手続などの手続を実施しなければ,所有権界と筆界の不一致が生じることになります。

 ⑶ 筆界の確定と地積に関する更正の登記等

前述の事例のように,公簿上の地積と実測結果を一致させようと考えた場合,どのような方法をとることができるのか改めて説明します。

この点は,不動産売却のために筆界を確定させようとお考えになる方にとっては,特に気になる点かと思われます。

一見すると所有権界が決まらなければ地積について変更修正ができないかとも思われますが,この点については,「筆界特定がされた場合における登記事務の取扱いについて(依命通知)」(法務省民二第27号 平成18年1月6日)という行政通達が出ており,筆界が特定され,この行政通達による一定の要件をみたす場合には,公簿上の地積の更正の登記や地図訂正ができるとされています。

そして,筆界を特定する制度としては,次項でご説明する筆界特定制度という手続がございます。

2 筆界を確定する方法

 ⑴ 筆界特定制度

筆界特定制度は,法務局の制度で,ある土地が登記された際にその土地の範囲を区画するものとして定められた線(筆界)を,筆界特定登記官が明らかにする制度です。筆界特定制度を活用することにより、公的な判断として筆界を明らかにできるため、筆界をめぐるトラブルを迅速に解決できるといわれています。

手数料は,隣の土地の価格の合計額が4,000万円である場合には、申請手数料は、8,000円とリーズナブルで,期間も9か月程度といわれています。別途,測量費用(土地や依頼する業者によりけりですが40万~60万円程度は要することが多いです。)。

このような簡便かつ非常に利用しやすい本制度ではございますが,この制度には欠点もございます。

それは,例えば,この制度で筆界が決まったとして,隣地所有者がその筆界に納得がいかないと主張した場合,境界確定の訴えという訴訟を提起できることとなります。境界確定の訴えは,この筆界特定制度により定まった筆界に拘束されることなく裁判官が判断することとなるため,判断が覆る可能性があります。そのため,予め,このような展開が予測される事案においては,境界確定訴訟からスタートした方が良い場合もあります。この場合は通常は,弁護士が担当することとなります。

なお,一般的には,筆界特定制度は,土地家屋調査士が測量後にそのまま実施するケースが多いです。

(2) 境界確定の訴え

境界確定の訴えは隣接する土地の筆界の位置に争いがある場合に、判決により筆界を確定することを求める訴訟です。

こちらは,筆界特定制度と異なり,終局的に筆界が決まります。併せて所有権確認の訴えも併合提起することで,一挙にすべて解決できます。

もっとも,訴訟となるため,審理に時間を要します。

必ずしも,終局的に解決できるからといって,境界確定の訴えがベストアンサーというわけではありませんので,境界をめぐるトラブルに関しては,そもそも一口に「境界」といっても,それが筆界の問題なのか,所有権界の問題なのかといった前提問題の整理をも踏まえて,状況に応じて,どのような手続選択が良いか,専門家と相談しながら決めていく必要があります。


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