このコラムでは、固定残業代が無効となるケースについて解説します。

 

【目次】

1 固定残業代制度が無効となるケース

2 固定残業代制度が無効となった場合

3 残業代請求に関する当事務所の弁護士費用

4 おわりに

 

1 固定残業代制度が無効となるケース

固定残業代制度とは、あらかじめ定められた時間内であれば、労働者が実際に残業した時間にかかわらず、一定の割増賃金を支払うという制度です。会社からすると、労働者ごとに残業代を計算する手間が省け経理事務上の煩雑さ・コストを抑えることができること等がメリットとして挙げられます。
しかし、以下のケースに該当する場合、固定残業代制度が無効となる可能性があります。

⑴ 就業規則・雇用契約書に固定残業代制の記載がない

会社は、本来、労働者に時間外労働等をさせた場合、労基法37所定の方法、すなわち、「時間単価×割増率×割増対象労働時間数」で計算した割増賃金を支払う必要があります。
そのため、固定残業代として割増賃金を支払う場合、本来とは別の方法で支払うことになるため、そのことについて契約で定める必要があります。
固定残業代として「超過手当」、「深夜業手当」という名称の手当が支給されていたとしても、契約書や就業規則に何らの記載もないような場合においては、割増賃金としての支払いが否定される可能性があります(東京地裁平成31年4月26日判決・判例タイムズ1468号153頁)。

⑵ 通常の労働時間の賃金と割増賃金に当たる部分とを判別することができない

固定残業代の支払いが有効となるためには、通常の労働時間の賃金と割増賃金に当たる部分が判別できる必要があります(高知県観光事件判決・最二小判平成6年6月13日・集民第172号673頁)。
例えば、金額も時間数も明らかにすることなく、単に「基本給には割増賃金が含まれている」と契約書等に記載されているのみでは、基本給のうち、どの部分が「通常の労働時間の賃金」に当たり、どの部分が「割増賃金」に当たる部分か判別不能であるため、割増賃金を支払ったことになりません。

⑶ 固定残業代とされるものが時間外労働等に対する対価となっていない

固定残業代の支払いが有効となるためには、固定残業代とされているものが、時間外労働等に対する対価として支払われるものとされていることが必要となります(日本ケミカル事件・最一小判平成30年7月19日・集民259号77頁)。
この対価性の有無は、雇用契約に係る契約書等の記載内容のほか、具体的事案に応じ、使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容、労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの事情を考慮して判断することになります。
例えば、固定残業代がカバーする労働時間を超えて残業をしているのに全く差額の支払いがされてない場合、固定残業代とされている手当に時間外労働の対価としての性質以外のもの(例えば営業活動に伴う経費の補充等)が含まれている場合などは、対価性が否定され、割増賃金を支払ったことにならない場合があります。

⑷ 固定残業代がカバーする労働時間が長すぎる場合

固定残業代が想定する時間外労働の時間があまりにも長すぎる場合、そのような合意は公序良俗に反して無効となる場合があります。
例えば、イクヌーザ事件・東京高裁平成30年10月4日・労判1190号5頁は、「実際には、長時間の時間外労働を恒常的に労働者に行わせることを予定していたわけではないことを示す特段の事情が認められる場合はさておき、通常は、基本給のうちの一定額を月間80時間分相当の時間外労働に対する割増賃金とすることは、公序良俗に違反するものとして無効とすることが相当である。」と判断しています。
この裁判例によれば、固定残業代が想定する時間が80時間であれば直ちに固定残業代が無効となるわけではありませんが、実際の時間外労働が80時間を超えることが多い場合は、長時間の時間外労働を恒常的に労働者に行わせることを予定していたと判断され、固定残業代の合意は無効となる可能性があります。

 

2 固定残業代制度が無効となった場合

固定残業代制度が無効とされた場合、割増賃金を一切払っていないことになります。
例えば、基本給が25万円、営業手当(固定残業代とされている)が5万円、月の平均所定労働時間が160時間で、1か月の時間外労働が30時間とします。
もし、営業手当が固定残業代であると認められると、この月の残業代は、(25万円÷160時間)×1.25×30時間=5万8593円となり、請求できる額は5万8593円-5万0000円(固定残業代である営業手当)=8593円となります。
他方、営業手当が固定残業代でないとされると、この月の残業代は、(25万円+5万円)÷160時間×1.25×30時間=7万0312円となり、この額が請求できる額となります(営業手当は残業代の支払いではないため、5万円の控除はできません)。
以上、固定残業代として認められるか否かで、①残業代計算のための基礎単価に違いが生じ、②計算された残業代から、固定残業代の額を控除できるかの点でも違いが生じ、最終的に請求できる金額も大きく変わってきます。

 

 残業代請求に関する当事務所の弁護士費用

残業代請求に関する当事務所の弁護士費用は、以下のリンクからご確認いただけます。

労働・解雇・残業代

 

4 おわりに

今回は、残業代が固定残業代として支払いがされている場合でも、適切な方法で支払いがされていない場合は、同制度が無効となるケースについて解説しました。
残業代請求について何か少しでもお悩みの際は、当事務所でお力になれる可能性がありますので、まずはお気軽に弁護士までご連絡いただければと思います。

 

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