「マンションの賃貸経営をしていますが、賃料の増額をしたいです。どのように行えばよいでしょうか。」

このようなご質問をお客様から寄せられる場合があります。

このコラムでは、建物の賃料増額請求の方法と手続についてご説明し、そのうえで、賃料増額請求が認められる要件と適正賃料について解説します。

 

【目次】

1 賃料増額請求について

2 賃料増額の方法と流れ

3 賃料増額請求が認められる要件

4 適正賃料について

5 賃料増額請求に関する当事務所の弁護士費用

6 おわりに

 

1 賃料増額請求について

借地借家法32条1項は、

①租税その他負担の増額

②物件の価格の上昇その他の経済事情の変動

③近隣の建物の賃料との比較

などの事情を総合考慮し、現賃料が不相当となったときには、賃料の増額請求ができると定めています。
不動産の賃貸借契約は、一般的に長期間に及ぶものとなりますので、その間に物価・地価の上昇、経済状況や周辺環境の変化によって、現状の家賃が不相当になることもあります。
そのような場合に、不動産の賃貸人は、賃料増額請求権を行使することによって、正当な家賃をもらうことが可能になります。

 

2 賃料増額の方法と流れ

⑴ 当事者の協議による変更
賃貸借契約は、賃貸人と賃借人の合意によって締結されたものですので、その内容を変更する場合にも賃貸人と賃借人の合意によって行うことが可能です。
そのため、賃貸人は、前述の①~③の事情を総合考慮した結果、賃料の増額が相当と判断できる場合、賃借人に対し賃料増額の意思表示を行い、賃料増額についての協議を行います。
なお、賃料増額請求権は、形成権と呼ばれる権利ですので、当事者の一方的な意思表示により行使することができ、その意思表示が賃借人に到達したときから賃料増額の効果が生じこととなりますが、賃借人は、この増額請求に納得しない場合、増額を正当とする裁判が確定するまでの間、自身が相当と認める額の賃料を払うことができます(借地借家法32条2項)。
したがって、賃料増額請求権を行使したとしても、協議が整わない場合は、以下の裁判所を利用した手続に移行する必要があります。

⑵ 賃料等増額調停の申立て
当事者同士では話し合いがまとまらないという場合には、原則として紛争の目的である宅地もしくは建物の所在地を管轄する簡易裁判所に賃料増額調停の申立てをすることになります(民事調停法24条)。
賃料増額請求については、調停前置主義がとられていますので、話し合いができないからといっていきなり訴訟を起こすことはできず、原則としてまずは調停を申し立てる必要があります(民事調停法24条の2第1項)。
賃料等調停では、調停委員を通じて話合いによる解決を試みられますが、話合いによる解決が難しい場合は、現在の賃料が不相当であるかどうかを判断するために、不動産鑑定士による鑑定が行われます。
鑑定結果が出てもなお、当事者間の合意が得られない場合には、調停が不成立となりますが、裁判所が職権で事件解決のために17条決定を行う場合があります(民事調停法17条)。
17条決定に対して、不服がある当事者は、決定の告知を受けた日から2週間以内に異議の申し立てをすることによって17条決定の効力は失われますが(民事調停法18条1項・4項)、2週間以内に異議申し立てがされなかった場合は、裁判上の和解を行ったことになります(同条5項)。

⑶ 賃料額確認訴訟の提起
賃料等調停が不成立となった場合又は17条決定に対して異議申立があった場合には、賃貸人としては、裁判所に賃料額確認訴訟を提起する必要があります。
賃料額確認訴訟では、当事者からの主張・立証に基づいて、裁判官が原告の請求する賃料額が相当であるかどうかを判断することになります。
裁判でも不動産鑑定士による鑑定結果が賃料の判断の資料とされるのが一般的です。
なお、判決によって賃料の増額が認められた場合には、賃借人は、既に支払った賃料に不足があるときはその不足額に年10%の利息を付して支払う必要があります(借地借家法32条2項但書)。

 

3 賃料増額請求が認められる要件

賃料増額請求は、現行の賃料についての「直近合意時点」と「賃料増額請求によって賃料が増額される時点」の2時点を比較して、現行賃料が不相当(前述の借地借家法32条1項)に至った場合に認められます。
借地借家法32条1項は、不相当性の判断要素として、以下の事情を掲げています。

土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増額
⇒土地(賃貸借の目的である建物の敷地)及び建物(借家)に係る固定資産税及び都市計画税その他の公租公課の増額のほか、建物が借地上に存在する場合の地代等の増額や建物の使用に伴う電気料金等のいわゆる公共料金等の増額をいいます。

土地若しくは建物の価格の上昇その他の経済事情の変動
⇒土地(敷地)又は建物の時価の変動のほか、物価の変動、国民所得水準の変動等、種々の経済事情の変動を言います。

近傍同種の建物の賃借との比較
⇒賃貸借の目的である建物の付近にある、目的建物と種類、構造、規模、用途等が類似する建物の賃料と比較して、どの程度低いかという事情を言います。
一棟の建物の一部の賃貸借である場合(オフィスビルやアパートなどの場合)には、同一建物内の、階数、南側か北側かといった位置関係、間取り等の類似する他の部分の賃料との比較もこれにあたります。

なお、不相当性の判断要素は、上記①から③に限らず、最高裁平成17年3月10日判決・判例タイムズ1179号185頁は、「賃貸人と賃借人が賃料額決定の要素とした事情その他諸般の事情」も総合的に考慮すべきものであるとしています。
例えば、賃貸借契約締結当時は、賃貸人と賃借人の関係は良好であったので賃料が低めに設定されたが、その後の賃借人の背信的な行為により関係が悪化した、といった人的な事情も判断要素となり得ます。

 

4 適正賃料について

賃料増額請求権は、形成権と呼ばれる権利ですので、当事者の一方的な意思表示により行使することができ、その意思表示が賃借人に到達したときから賃料増額の効果が生じこととなります。
しかし、意思表示をしさえすれば好きな額に賃料を増額できるというわけではありません。増額できるのは、「適正賃料」の額までとなります。
この適正賃料は、差額分配法、利回り法、スライド法、賃貸事例比較法といった複数の鑑定手段を組み合わせて算出することになりますが、適正賃料を裁判所が自ら算出するのではく、裁判所が選任する不動産鑑定士の鑑定によるのがほとんどとなります。

 

 賃料増額請求に関する当事務所の弁護士費用

賃料増額請求に関する当事務所の弁護士費用は、以下のリンクからご確認いただけます。

  https://kl-o.jp/estate/#hudousanhiyou

 

6 おわりに

賃料増額請求に関する問題のうち、適正賃料の算出は不動産鑑定士の鑑定によることがほとんどですが、現行賃料が不相当か否かについては、諸般の事情を考慮して判断するため、法的判断が絡むことになります。
賃料増額請求について何か少しでもお悩みの際は、当事務所でお力になれる可能性がありますので、まずはお気軽に弁護士までご連絡いただければと思います。

 

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