令和8年6月25日、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(以下「自動車運転処罰法」といいます。)及び道路交通法の一部を改正する法律案が衆議院本会議で可決され、成立しました。
今回の改正の大きな目玉は、危険運転致死傷罪の要件について、一部数値化したことにあります。
このコラムでは、改正法のポイントや誤解しやすい留意点などについて解説します。
なお、交通事件の刑事弁護対応については、以下のコラムもご参照ください。
「交通事故の加害者になったら-刑事事件における弁護活動のポイント」【令和8年5月13日更新】
【目次】
1 危険運転致死傷罪とは
2 法改正の経緯
3 改正のポイント1 飲酒運転の数値基準
4 改正のポイント2 高速度運転の数値基準
5 改正のポイント3 ドリフト走行・ウイリー走行なども対象に
6 当事務所の刑事事件に関する弁護士費用
7 まとめ
1 危険運転致死傷罪とは
危険運転致死傷罪は、飲酒、薬物、高速度、無免許に近い無技能運転、妨害運転、赤信号無視など、特に危険性の高い運転行為によって人を死傷させた場合に成立する犯罪です。
単なる不注意による交通事故の場合には、通常、過失運転致死傷罪が問題になります。
これに対し、危険運転致死傷罪は、「危険な運転であることを分かっていながら、そのような運転をした」という点で、より重く処罰される犯罪です。
自動車運転処罰法第2条の危険運転致死傷罪では、人を負傷させた場合には15年以下の拘禁刑、人を死亡させた場合には1年以上の有期拘禁刑が定められています。
交通事故の刑事事件の中でも、非常に重い犯罪類型です。
今回の法改正で重要なのは、危険運転致死傷罪のうち、特に問題となりやすかった「飲酒運転」と「高速度運転」の要件について、一定の数値基準が設けられた点です。
2 法改正の経緯
これまでの危険運転致死傷罪では、飲酒類型については、「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」、高速度類型については、「その進行を制御することが困難な高速度」が要件として定められていました。
しかし、これらの表現は抽象的であり、たとえば、飲酒運転事故であっても、アルコール濃度、事故直前の運転状況、歩行状況、言動、飲酒量、飲酒から事故までの時間など、さまざまな事情を総合して、「正常な運転が困難だったか」を判断する必要がありました。
また、高速度運転についても、「何km/h以上なら危険運転になるのか」という明確な線引きはありませんでしたので、著しい速度超過があった事案でも、道路の形状、交通量、見通し、車両の性能、運転者の操作状況などを踏まえて、危険運転致死傷罪に当たるかどうかが判断されてきました。
刑事事件では個別事情を丁寧に見る必要がありますが、重大事故の被害者・遺族からすれば、「これほど危険な運転なのに、なぜ危険運転にならないのか」と感じる事案が生じていたことも事実です。
今回の改正は、このような判断の不明確さを一定程度解消するため、飲酒と速度について客観的な数値基準を導入するものです。
3 改正のポイント1 飲酒運転の数値基準
改正法では、危険運転致死傷罪の飲酒類型について、次のような基準が設けられました。
血液1mLにつき1.0mg以上、又は呼気1Lにつき0.5mg以上のアルコールを身体に保有する状態
この数値以上のアルコールを身体に保有している状態で自動車を走行させ、人を死傷させた場合には、「アルコール影響正常運転困難状態」の要件を満たすことになります。
ここで注意すべきなのは、今回の改正は「この数値に達しなければ、危険運転致死傷罪が絶対に成立しない」という意味ではないことです。
改正後の条文でも、「その他アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」という要件は残ります。
したがって、数値基準に達していない場合でも、事故前後の運転状況、蛇行運転、信号無視、ブレーキ操作の異常、会話・歩行の状況などから、正常な運転が困難だったと認められれば、危険運転致死傷罪が問題になる余地があります。
4 改正のポイント2 高速度運転の数値基準
高速度運転についても、次のような数値基準が導入されました。
最高速度が60km/h以下の道路の場合 :最高速度を50km/h超える速度
最高速度が60km/hを超える道路の場合:最高速度を60km/h超える速度
たとえば、最高速度50km/hの一般道路であれば、100km/hを超える速度の場合、最高速度80km/hの道路であれば、140km/hを超える速度の場合に高速度運転の要件を満たすことになります。
このように、道路ごとの最高速度を基準にして、一定以上の速度超過があった場合には、危険運転致死傷罪の対象となることが明確にされました。
もっとも、改正後の条文は、単に数値基準を超えた速度だけを対象にするのではなく、その基準に準ずる速度で、道路や交通の状況に応じて重大な交通の危険を回避することが著しく困難な高速度で運転した場合も対象にしています。
つまり、「基準より少し低い速度だから危険運転ではない」と機械的に判断されるわけではありません。
道路幅、カーブ、交差点、歩行者の有無、交通量、天候、時間帯などを踏まえて、なお危険運転致死傷罪が成立する場合があります。
5 改正のポイント3 ドリフト走行・ウイリー走行なども対象に
今回の改正では、飲酒や高速度だけでなく、殊更にタイヤを滑らせたり、浮かせたりすることにより、車両の進行を制御することが困難な状態にさせて走行する行為も、危険運転致死傷罪の対象行為として追加されました。
典型的には、ドリフト走行やウイリー走行のように、通常の安全な走行とは異なり、車両を意図的に不安定な状態にする運転が想定されます。
このような運転は、運転者本人が「遊び」や「見せるため」と考えていたとしても、周囲の歩行者・車両に重大な危険を生じさせます。その結果、人を死傷させた場合には、単なる過失運転ではなく、危険運転致死傷罪として重く処罰される可能性があります。
6 当事務所の刑事事件に関する弁護士費用
当事務所の刑事弁護に関する費用は次のページをご参照ください。
犯罪・刑事
7 まとめ
危険運転致死傷罪は、交通事件中でも重大な犯罪に位置付けられており、身柄拘束のリスクも高い類型の犯罪です。
そして、身柄拘束の早期解放を目指し、また、適切な処分や判決を求めるためには、刑事事件に関する専門知識やノウハウが豊富な弁護士の助言、協力が不可欠です。
刑事弁護をご希望の方は、事件発生後速やかに、ご本人又はご家族から当事務所までお問合せ下さい。
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