令和8年(2026年)4月1日から、離婚後の親権者について、父母の一方だけでなく、父母双方を親権者と定めることもできる制度が施行されました。令和6年法律第33号は、父母の離婚等に直面する子の利益を確保するため、親権・監護、養育費、親子交流などに関する民法等の規定を見直すものであり、令和8年4月1日に施行されています。
共同親権という言葉だけを見ると、「離婚後も父母がすべて一緒に決めなければならないのか」「子どもと一緒に暮らす親は、どこまで単独で決められるのか」と不安に感じる方も少なくありません。
そこで重要になるのが、 「子の監護者の指定」 という制度です。
本記事では、共同親権のもとで監護者指定がどのような意味を持つのか、どのような場合に監護者として指定されやすいのか、監護者を指定しないという判断があり得るのか、さらに、監護者指定とは別の選択肢である「監護の分掌」や「特定事項についての親権行使者指定」について解説します。
1 監護者指定とは何か
「監護者」とは、簡単にいえば、子どもの日常生活の世話、教育、住む場所など、子どもの身の回りに関する事項を中心的に担う人をいいます。
民法766条1項は、離婚時に父母が協議で定める事項として、「子の監護をすべき者」だけでなく、「子の監護の分掌」も予定しています。改正法では、同条1項に「又は子の監護の分掌」という文言が加えられました。
ここでいう「子の監護をすべき者」が、一般に「監護者」と呼ばれるものです。
もっとも、条文上、「子の監護をすべき者又は子の監護の分掌」とされている点が重要です。つまり、法律は、必ず父母のどちらか一方だけを監護者に決めることを当然の前提としているわけではありません。
父母の事情や子どもの生活状況によっては、監護者を一人に定めるのではなく、監護を分担する「監護の分掌」を定めることもあります。法務省のQ&Aでも、監護の分掌とは、子の監護を父母が分担することであり、監護を担当する期間を分ける方法や、教育に関する事項など監護に関する一部を父母の一方に委ねる方法が例として挙げられています。
2 旧法下では、監護者指定の役割は限定的だった
改正前の民法では、離婚後は父母のどちらか一方を親権者と定める必要がありました。いわゆる離婚後単独親権です。
親権には、子どもの身の回りの世話や教育を行う「身上監護」に関する権限が含まれます。そのため、離婚時に親権者を決めると、通常はその親権者が子どもの監護も行うことになっていました。
もちろん、親権者と監護者を分けることも制度上は可能でした。たとえば、「親権者は父、監護者は母」とするような場合です。
しかし、親権者と監護者を分けると、子どもの進学、転居、医療などをめぐって父母間の対立が残りやすく、実務上は慎重に扱われることが多いものでした。
また、離婚前の別居中は、父母双方が親権者であるため、監護者指定は「当面どちらが子どもを現に監護するか」を決める意味合いが中心でした。子の引渡しや別居中の生活環境を整えるうえでは重要でしたが、監護者に指定された親が、子どもの重要事項をどこまで単独で決められるのかについては、改正後の制度ほど明確ではありませんでした。
そのため、旧法下の監護者指定は、主として「誰が子どもを現実に育てるのか」を定める制度として理解されてきました。
3 共同親権の導入で、監護者指定の意味が大きく変わった
改正後の民法では、離婚後の親権者について、父母の一方だけでなく、父母双方を親権者と定めることも可能になりました。もっとも、共同親権と単独親権のどちらが常に原則というわけではなく、協議が調わない場合には、家庭裁判所が子の利益のため、父母と子との関係、父母相互の関係その他一切の事情を考慮して判断します。また、父母双方を親権者とすることにより子の利益を害すると認められる一定の場合には、父母の一方を親権者と定めなければならないとされています。
共同親権の場合、原則として親権は父母が共同して行います。民法824条の2第1項は、親権は父母が共同して行うとしつつ、一方のみが親権者であるとき、他方が親権を行うことができないとき、子の利益のため急迫の事情があるときには、一方が単独で行うことを認めています。また、同条2項は、監護及び教育に関する日常の行為については、父母の一方が単独で親権を行使できると定めています。
ただし、「共同して行う」といっても、常に父母双方が同席しなければならないとか、必ず双方の署名押印が必要という意味ではありません。法務省Q&Aでは、共同で親権を行使すべき事項について他方親に協議を求めたにもかかわらず、相当期間内に反応がない場合などには、黙示的な同意があったと評価できる場面も多いと説明されています。
他方で、共同親権であっても、すべてを父母二人で決めなければならないわけではありません。日々の食事、服装、人付き合いなど、子に重大な影響を与えない身上監護上の行為は、日常の行為に当たり得ます。学校関係でも、給食の手続、出欠連絡、学校行事への参加同意、学校生活に関する照会などは日常の行為に当たり得ますが、入学、退学、転学、留学、休学、就学校変更などは、通常、日常の行為には当たらないものと整理されています。
子どもの転居については特に注意が必要です。法務省Q&Aでは、子の転居は移動距離にかかわらず、通常は子の生活に重大な影響を与え得るため、同一学区内の転居も含め、基本的には日常の行為には該当しないとされています。もっとも、DVや虐待から避難する必要がある場合には、「子の利益のため急迫の事情」があるときに当たり得ます。
つまり、共同親権のもとでは、子どもの生活に重大な影響を与える事項については、原則として父母の共同の意思決定が必要になります。
そこで重要になるのが、監護者指定です。
4 監護者に指定されると、何を単独で決められるのか
改正民法は、監護者の権利義務について、民法824条の3を設けました。
同条1項は、民法766条等により定められた子の監護をすべき者が、民法820条から823条までに規定する事項について、親権を行う者と同一の権利義務を有すると定めています。そのうえで、監護者は、単独で、子の監護及び教育、居所の指定及び変更、営業の許可、その許可の取消し及びその制限をすることができるとされています。同条2項は、監護者以外の親権者が、監護者によるこれらの行為を妨げてはならないと定めています。
裁判所の手続案内でも、共同親権下の父母は、原則として、居所の決定、心身に重大な影響を与える医療行為の決定、進学先の選択など、子の身上監護に関する重大な行為について共同して決定する必要がある一方、父母の一方が監護者に指定された場合には、これらの重大な行為を含む身上監護全般について単独で決定できると説明されています。
したがって、共同親権であっても、父母の一方が監護者に指定された場合、その監護者は、子どもの身上監護に関する事項を単独で決めることができます。たとえば、進学先の選択、子どもの居所の決定、重大な医療行為に関する判断なども、監護者の単独判断の対象になり得ます。
ただし、監護者に指定されても、子どもの財産管理や、養子縁組・氏の変更などの身分行為に関する法定代理まで単独でできるわけではありません。裁判所も、監護者が指定された場合であっても、財産管理行為や身分行為の法定代理等を単独ですることはできないと説明しています。
この点は重要です。監護者指定は、子どもの身上監護に関する単独決定権限を与える制度ですが、親権全体を一方に移す制度ではありません。
5 監護者指定の判断基準・判断要素
では、どのような場合に監護者として指定されるのでしょうか。
まず、家庭裁判所で監護者指定を求める場面では、父母の協議が調わない、または協議ができないことが前提になります。裁判所の手続案内でも、子の監護者を定めるための父母の協議が調わないとき、または協議ができないときには、家庭裁判所の調停または審判の手続を利用できるとされています。
そのうえで、最も重要な判断基準は、子の利益です。
裁判所の手続案内では、監護者指定は子の健全な成長を助けるようなものである必要があり、調停では、申立人が監護者指定を希望する事情、これまでの養育状況、父母双方の経済力や家庭環境、子の性格、就学状況、生活環境などを把握し、子の利益を優先した取決めができるよう話合いが進められると説明されています。話合いがまとまらない場合には、審判手続に移行し、裁判官が一切の事情を考慮して判断します。
実務上は、たとえば次のような事情が総合的に検討されます。
「これまで主に誰が子どもの世話をしてきたか」
「現在の生活環境が安定しているか」
「子どもの年齢、性格、心身の状態、学校や保育園での状況」
「子ども本人の意向」
「兄弟姉妹との関係」
「父母それぞれの監護能力、生活環境、サポート体制」
「父母間の対立の程度」
「安全確保や子の利益に基づく正当な理由なく、他方親との交流や情報共有を不当に妨げていないか」
「DV・虐待、精神的DV、経済的DV、性的DVその他子どもや一方親の安全・安心に関わる事情」
「共同で決めようとすると、子どもの生活に支障が生じるか」
重要なのは、監護者指定は「父と母のどちらが優れているか」を決める手続ではないということです。あくまで、その子どもにとって、どのような監護体制が最も安定し、健全な成長につながるかを判断する手続です。
6 旧法下の監護者指定と、共同親権導入後の監護者指定は何が違うのか
監護者指定の基本的な判断基準が「子の利益」であること自体は、旧法下でも改正後でも変わりません。
しかし、共同親権が導入されたことで、監護者指定の意味と、裁判所が検討すべきポイントは大きく変わりました。
旧法下では、離婚後は単独親権が前提でした。そのため、親権者を定めれば、多くの場合、その親権者が子どもの監護も担うことになりました。監護者指定は、親権者とは別に監護者を置く必要がある例外的な場面や、別居中にどちらが子どもを現に監護するかが争われる場面で問題となることが多かったといえます。
これに対し、共同親権のもとでは、父母双方が親権者である場合でも、監護者を定めるかどうかが重要な問題になります。
なぜなら、共同親権のまま監護者を定めない場合、子どもの転居、進学先、重大な医療行為などについて、原則として父母の共同の意思決定が必要になるからです。一方で、監護者が指定されれば、その監護者は、身上監護全般について単独で決定でき、他方親権者はこれを妨げることができません。
したがって、共同親権導入後の監護者指定では、従来のように「どちらが現実に子どもを育てているか」だけでなく、次の点がより重要になります。
子の利益のために、身上監護全般について一方の親に単独決定権限を与える必要があるか。
たとえば、父母の対立が深く、子どもの進学、医療、転居についてその都度協議することが難しい場合、監護者指定が子どもの生活の安定につながることがあります。
一方で、父母が一定程度協議できる関係にあり、子どもの重要事項について共同で決めても大きな支障がない場合には、あえて監護者を指定しない方が子の利益にかなうこともあります。
この意味で、共同親権導入後の監護者指定は、単に「同居親を決める制度」ではなく、共同親権の中で、子どもの身上監護に関する単独決定権限を一方に与える必要があるかを判断する制度としての意味を強めたといえます。
7 監護者を「指定しない」という結論もあり得る
監護者指定というと、「父を監護者にするか、母を監護者にするか」という二択のように考えられがちです。
しかし、共同親権のもとでも、家庭裁判所が必ず父母のどちらか一方を監護者として指定しなければならないわけではありません。
この点については、国会論議に関する参議院の資料でも、父母の合意がない場合に裁判所が離婚後共同親権を指定する場合には監護者の定めを必須とすべきとの意見があったことに対し、法務大臣が、父母が子の身上監護をどのように分担するかはそれぞれの事情により異なるため、離婚後の父母の一方を監護者と定めることを必須とすることは相当ではない旨を答弁したと整理されています。
また、裁判所の手続案内でも、監護者指定の手続の説明において、単独で決定したい事柄の内容によっては、その事柄を絞って話合いを進める方が望ましい場合もあるとして、「親権行使者の指定調停」や「監護の分掌調停」の手続も参考にするよう案内しています。
つまり、共同親権下の問題を解決する方法は、監護者指定だけではありません。主な選択肢として、次の3つが考えられます。
1つ目:監護者を特に定めず、父母が共同で親権を行使する方法
父母間で必要な連絡や協議ができ、子どもの重要事項について共同決定しても子どもに不利益が生じにくい場合には、監護者を指定しない形が適していることがあります。
この場合、日常の行為については父母の一方が単独で行うことができますが、子どもの生活に重大な影響を与える事項については、原則として父母の共同の意思決定が必要になります。
2つ目:監護の文章を定める方法
監護者指定とは別に、監護の分掌を定める方法があります。
裁判所の「監護の分掌調停」の手続案内では、共同親権として離婚した父母や別居中の父母の間などでは、子の身上監護について、父と母の協議により分担を定めることができ、これを監護の分掌というと説明されています。具体例としては、①子の監護を担当する期間を分担すること、②子の監護に関する事項の一部を父母の一方に委ねることが挙げられています。
父母の協議が調わないとき、または協議できないときには、家庭裁判所の調停または審判の手続を利用できます。裁判所は、監護の分掌は子の健全な成長を助けるようなものである必要があるとしており、調停では、申立人が監護の分掌を希望する事情、他方当事者の意向、父母間の協議状況、これまでおよび現在の養育状況、家庭環境、子どもの年齢、就学の有無、発達特性、心身の状況、父母と子との関係性などを把握し、子の利益を優先して話合いが進められます。話合いがまとまらない場合には、審判手続が開始され、裁判官が一切の事情を考慮して判断します。
監護の分掌は、単なる親子交流とは異なります。法務省Q&Aでも、監護の分掌は交流にとどまらず、具体的な監護の内容について話し合い、定めるものと説明されています。
たとえば、子どもが平日は一方の親のもとで生活し、週末や長期休暇中は他方の親が監護を担当する方法が考えられます。また、子どもの生活実態に応じて、教育に関する事項を一方の親が分掌する、医療機関との連絡や受診対応について役割を定める、といった方法も考えられます。
裁判所の図解では、「教育に関する事項」を同居親が分掌する例として、教育に関する重大な行為を含む教育全般について、分掌する親が単独で決定可能となるイメージが示されています。ただし、教育に関する事項であっても、子が契約当事者となる場合の法定代理については、分掌者でも単独では行えないとされています。
したがって、監護の分掌は、「監護者指定より軽い制度」と単純に理解すべきではありません。分掌の内容によっては、特定分野についてかなり大きな単独決定権限を持つことがあります。一方で、法定代理や財産管理、身分行為まで当然に単独でできるわけではないため、分掌の内容と限界を明確にしておく必要があります。
3つ目:特定事項について親権行使者を指定する方法
父母の対立が、子どもの身上監護全般ではなく、特定の事項に限られている場合には、監護者指定よりも、特定事項について親権行使者を指定する方法が適していることがあります。
民法824条の2第3項は、父母が共同して親権を行使すべき特定の事項について、父母間に協議が調わない場合で、子の利益のため必要があるときは、家庭裁判所が、その事項に限って父母の一方が単独で親権を行使できる旨を定めることができるとしています。
裁判所の「親権行使者の指定調停」の手続案内でも、父母双方が親権者である場合で、共同して親権を行うべき特定の事項について協議が調わないときは、家庭裁判所に、その事項に係る親権を単独で行使できる者を定める調停または審判の申立てができると説明されています。対象となる事項の例としては、居所の決定、在学契約の締結、心身に重大な影響を与える医療行為の決定、子の財産管理に関する行為、15歳未満の子の氏の変更の法定代理、養子縁組の代諾などが挙げられています。
ただし、民法824条の2第3項に基づく親権行使者の指定は、家庭裁判所の審判等によってされるものであり、父母間の私的な合意書だけで同項の指定になるわけではありません。法務省Q&Aも、この親権行使者の指定は家庭裁判所の審判等によってされるもので、私的文書で同項の指定をすることは想定されていないと説明しています。
たとえば、争いが「進学先」や「在学契約の締結」だけに限られている場合には、身上監護全般について監護者を指定するよりも、その特定事項について親権行使者を定める方が適している場合があります。
このように、共同親権下では、監護者指定は重要な手段ですが、唯一の手段ではありません。子どもの利益を考えたときに、監護者を指定しない、監護を分掌する、特定事項だけ親権行使者を定める、という結論も十分にあり得ます。
8 監護者指定が必要になりやすいケース
監護者指定が検討されやすいのは、たとえば次のようなケースです。
まず、父母間の対立が強く、子どもの学校、医療、転居などについて協議が進まない場合です。共同決定にこだわることで、子どもに必要な手続や判断が遅れてしまうのであれば、監護者を指定して、一方が単独で決められる体制を整える必要性が高くなります。
次に、子どもの生活基盤が一方の親のもとで安定しており、その生活を継続することが子どもの利益に合う場合です。幼い子どもや、環境変化に弱い子どもの場合には、生活の継続性が特に重視されることがあります。
また、他方親が、合理的な理由なく連絡に応じない、子どもの生活に必要な決定を妨げる、学校や医療機関への対応に混乱を生じさせるといった事情がある場合にも、監護者指定が検討されることがあります。
もっとも、DVや虐待など安全に関わる事情がある場合には、監護者指定だけでなく、単独親権の指定、親権者変更、保護命令、親子交流の制限など、別の手段も含めて検討する必要があります。法務省Q&Aでも、DV・虐待等の事案では、父母が共同して親権を行使することが困難な場合にまで、できない協力を無理に強要するものではないと説明されています。
また、DVや虐待からの避難が必要な場合には、子を連れて転居等をすること自体が父母相互の人格尊重・協力義務に違反するものではなく、急迫の事情が認められる場合もあります。
9 まとめ
共同親権の導入により、子の監護者指定の役割は大きく変わりました。
旧法下では、監護者指定は主に「誰が子どもを現に育てるか」を定める制度として理解されていました。これに対し、共同親権のもとでは、子どもの身上監護に関する重要事項を一方の親が単独で決定できるようにする制度としての意味が強くなっています。
ただし、監護者指定は、必ず父母のどちらか一方を選ばなければならない制度ではありません。父母の一方を監護者と定めることを必須とすることは相当ではない旨の法務大臣答弁もあり、事案によっては、監護者を指定しない、監護の分掌を定める、特定事項について親権行使者を定めるといった選択肢も考えられます。
特に、裁判所は「監護の分掌調停」という手続を案内しており、共同親権として離婚した父母や別居中の父母の間などで、子の身上監護について役割分担を定めることができると説明しています。監護の分掌は、単なる親子交流ではなく、具体的な監護内容を定める制度です。
大切なのは、父母のどちらの希望を通すかではなく、子どもの生活が安定し、健全な成長につながる形は何かを具体的に考えることです。
共同親権や監護者指定をめぐって悩んでいる場合には、早い段階で弁護士に相談し、親権、監護者指定、監護の分掌、特定事項についての親権行使者指定のどの手続が適しているのかを整理することが重要です。
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