「自己破産をすると自動車は手放さないといけませんか。」
このようなご相談がよくございます。
結論からいうと、自己破産をしても、車を必ず手放すわけではありません。
ローンの有無、車検証上の所有者、現在の処分見込額、年式、申立てをする裁判所の運用などによって、車を残せる場合があります。
他方、ローン会社の所有権が留保されている場合や、換価価値が高い場合には、引揚げ又は売却の対象となる可能性があります。法人名義の車は、原則として換価の対象です。破産前の名義変更や安価な売却は問題となり得るため、自己判断で処分せず、まず弁護士に相談してください。
本記事は、東京地方裁判所に申し立てる場合の一般的な実務を中心に、破産手続により自動車はどうなるかについて解説します。
【目次】
1 自動車等の所有の有無等の確認
2 破産をする場合、自動車等は手放す必要があるのか
⑴ 個人破産の場合
⑵ 法人破産の場合
3 個人が車を残すために検討する方法
⑴ 処分見込額が換価基準以下であることを資料で示す
⑵ 自由財産拡張を申し立てる
⑶ 第三者による適正価格での取得を検討する
⑷ 家族名義の車は実質的な所有関係を確認する
4 車の価値と必要資料
⑴ 基準は現在の処分見込額
⑵ 年式だけで価値をゼロと決めない
5 よくある質問
⑴ 自己破産をすると車は必ず引揚げの対象になりますか。
⑵ 車の査定額が20万円以下なら必ず残せますか。
⑶ ローンが残っている車はどうなりますか。
⑷ 古い車なら査定書は不要ですか。
⑸ 仕事や通院に必要なら残せますか。
⑹ 申立て前に家族名義へ変更してもよいですか。
⑺ 査定額が20万円を超えても親族が買えば残せますか。
6 破産に関する当事務所の弁護士費用
7 おわりに
1 自動車等の所有の有無等の確認
個人破産、法人破産の申立てを弁護士に依頼した場合、弁護士は、依頼者からヒアリングをして、自動車、軽自動車、自動二輪車(オートバイ)、原付を所有しているかどうかを確認することになります。
車検証のほか、必要に応じて、自動車税の納税通知書(毎年4月1日時点の所有者に課税されるため、5月頃に納税通知書が届くのが通例です。)、決算書・減価償却資産一覧表(車両運搬具、リサイクル預託金といった勘定科目の計上があるか。)、通帳の履歴(自動車保険の保険料の引落しがあるか。)を確認して、ヒアリング結果が正しいか見極めることになります。
そして、弁護士は、自動車等の所在を確認したうえで、破産申立てをする時期及び自動車等の利用を必要とする事情にもよりますが、必要に応じて自動車等の鍵、車検証を破産申し立てまで依頼者から預り保管し、破産手続申立て後は、破産管財人にそれらを引き継ぐことになります。破産手続申立て準備中、あるいは破産手続中に交通事故を起こした場合、依頼者あるいは破産管財人に運行供用者責任に基づく賠償責任が発生すると、破産手続の進行に重大な影響を及ぼすためです。
2 破産をする場合、自動車等は手放す必要があるのか
それでは、個人破産、法人破産の申立てをする場合、自動車等は手放す(=売却換価して債権者に対する配当に充てる)必要があるのでしょうか。
⑴ 個人破産の場合
個人破産をする場合、99万円以下の現金、20万円以下の預貯金等、裁判所の運用基準上、破産をしたとしても手許に残しておける財産が定められています。
東京地方裁判所の換価基準によれば、処分見込み額が20万円以下の自動車(査定書を取得する等します。)については、換価の必要はないとされています。
また、普通乗用自動車につき6年、軽自動車・商用車につき4年といった減価償却期間・法定耐用年数期間を経過している場合は、そもそも査定自体を要することなく換価の必要はないとされています。
このように換価不要とされている自動車については、破産管財人において放棄の手続を行い、破産者本人が利用できることになります。
手許に残しておける自動車が1台に限られる訳でもありません(野村剛司ほか『破産管財実践マニュアル(第2版)』(青林書院、2024年)294頁参照)。
また、仮に処分見込み額が20万円を超える場合でも、親族等から金銭援助を受けるなどにより、破産者が破産管財人から買い戻すこともできます。
⑵ 法人破産の場合
法人破産の場合、原則として、自動車等は換価することになります。
法人破産の場合は、破産手続の終結により最終的にその法人は消滅することになるからです。
そのため、法人名義の自動車等をプライベートでも利用していた場合は、親族等から金銭援助を受けるなどにより、破産者が破産管財人から買い戻すことにより、利用を継続することを検討することになります。
このとおり、個人破産、法人破産のいずれの場合であっても、自動車等を手許に残しておけるケースは間々見受けられるところです。
3 個人が車を残すために検討する方法
⑴ 処分見込額が換価基準以下であることを資料で示す
査定書等により処分見込額が裁判所の換価基準以下であることを示します。インターネット上の小売価格ではなく、業者が買い取る場合の金額を確認することが重要です。
⑵ 自由財産拡張を申し立てる
処分見込額が基準を超えても、通院、障害、介護、公共交通機関が乏しい地域での生活、勤務上の必要等は、自由財産拡張を判断する事情となり得ます。ただし、必要性があれば必ず車を残せるわけではありません。
診断書、勤務先の証明、公共交通機関の時刻表・経路、代替交通費等の資料を用意します。高額な車では、より安価な車への買替えを検討する場合もあります。
関連解説:破産後に残せるお金と自由財産拡張
「破産をした場合にお金はいくら残せるのか─自由財産と自由財産の拡張─」
⑶ 第三者による適正価格での取得を検討する
車の価値が換価基準を超える場合でも、破産管財人及び必要に応じて裁判所の了解を得て、親族その他の第三者が適正な時価で車を購入したり、時価相当額を破産財団に組み入れたりすることにより、換価を回避できる場合があります。
当然に認められる制度ではなく、査定額、資金の出所及び取引の公正さの確認が必要です。親族が購入した場合、所有者は原則としてその親族となります。
⑷ 家族名義の車は実質的な所有関係を確認する
家族名義であっても、購入代金を誰が負担したか、誰が主に使用しているか、維持費を誰が支払っているかなどから、実質的な所有関係が調査されます。名義だけで破産者の財産ではないと決まるわけではありません。
4 車の価値と必要資料
⑴ 基準は現在の処分見込額
購入時の価格、ローン残高、税務上の帳簿価額ではなく、申立時点で売却した場合の処分見込額を確認します。同じ年式でも、車種、走行距離、事故歴、修復歴、装備、車検残存期間及び市場人気によって金額は変わります。
⑵ 年式だけで価値をゼロと決めない
東京地方裁判所の実務では、初度登録から一定年数を経過した車について、原則として査定資料を省略できる場合があります。目安として、普通乗用自動車は6年、軽自動車及び商用自動車は4年とされますが、全国共通の法律上の基準ではありません。
輸入車、高級車、人気車種、電気自動車、ハイブリッド車、希少車、低走行車等は、年式が古くても査定が必要になることがあります。
5 よくある質問
- 自己破産をすると車は必ず引揚げの対象になりますか。
いいえ。本人所有か、所有権留保があるか、処分見込額、生活上の必要性及び裁判所の運用によって異なります。
- 車の査定額が20万円以下なら必ず残せますか。
必ずではありません。20万円は東京地方裁判所等の実務上の目安であり、全国一律の法定基準ではありません。複数の財産の内容や調査の必要性等も考慮されます。
- ローンが残っている車はどうなりますか。
契約上の所有権留保等の状況によっては車が引き揚げられる場合があります。他方、所有権留保とは無関係に組んだ銀行系マイカーローン等で本人が車を所有している場合、銀行は通常の債権者となり、車は本人の資産として評価されます。ローン残高が車の処分見込額から当然に控除されるわけではありません。
- 古い車なら査定書は不要ですか。
常に不要とは限りません。輸入車、高級車、人気車種、希少車、電気自動車等は、年式が古くても価値が残ることがあります。
- 仕事や通院に必要なら残せますか。
必要性は自由財産拡張等の判断事情になりますが、自動的に残せるわけではありません。勤務先の証明、診断書、代替交通手段や費用を示す資料を示しつつ、主張することとなります。一定金額の組み入れを求められることも少なくありません。
- 申立て前に家族名義へ変更してもよいですか。
自己判断で行ってはいけません。財産隠し、否認又は免責不許可事由等の別の問題となる可能性があります。時価での売却でも、正当化されるかどうかは状況によりますので、事前に弁護士へ相談してください。
- 査定額が20万円を超えても親族が買えば残せますか。
適正な時価と資金の出所を確認し、破産管財人及び必要に応じ裁判所の了解を得て、第三者が取得できる場合があります。ただし、当然に認められる制度ではありません。
6 破産に関する当事務所の弁護士費用
破産に関する当事務所の弁護士費用は、以下のリンクからご確認いただけます。
(個人破産)
https://kl-o.jp/financial/#00005
(法人破産)
https://kl-o.jp/bankruptcy/#houjinhiyou
7 おわりに
自動車が生活必需品ともいえる現代においては、破産手続により自動車等が手許に残しておけるかどうかは、日常生活・仕事に重大な影響を与えます。
このコラムで解説したとおり、裁判所の運用基準を正しく理解して、必要な証拠資料を集めれば、破産をしても自動車を手許に残しておけるケースは多くみられるところです。お困りの場合は、ローンの返済、債権者への返却、親族への名義変更又は売却を自分の判断で行わず、契約書、車検証、査定資料等を持参して早めに弁護士にお問い合わせください。
お電話でのお問い合わせ
平日9時~18時で弁護士が電話対応
※初回ご来所相談30分無料