交通事故で治療を継続していると,相手方の保険会社担当者やご自身の人身傷害保険の担当者から,「そろそろ治療を終了し,賠償額のご提示をさせて頂ければと思います。」等と告げられる場合があります。

お医者様の判断や,ご自身の判断でも,治療はもう終了して問題ないとお考えの場合は,そのまま治療を打ち切ったうえで,賠償のお話を進めていけば良いです。

もっとも,まだ痛み等が残っており,通院を継続してきちんと治療を続けたいと考えている状況で,打ち切りの打診がくる場合も少なくありません。

本コラムでは,このような治療費支払いの打ち切りの打診がきた場合の対応方法や実際に打ち切られてしまった場合にどのような対応をすれば良いかについて,説明いたします。

目次

1 治療費の打ち切りとは
2 打ち切りの延長の可否
3 打ち切られてしまった場合の対応
  ⑴ 自費通院(健康保険を利用した通院)
  ⑵ 自賠責保険への被害者請求
  ⑶ 労災の申請
  ⑷ 人身傷害保険の使用
  ⑸ まとめ
4 打ち切りと弁護士へのご相談のタイミング

1 治療費の打ち切りとは


治療費の打ち切りとは,保険会社が,被害者の治療費を被害者に代わって支払ってくれる対応(実務上,この対応を「一括対応」といいます。)を終了する取り扱いをいいます。

※なお,例えば,加害者側が自転車の場合や相手方が交通事故と怪我との関連性を争っている場合などは,一括対応を当初より拒否する場合もございます。一括対応は,あくまでも保険会社のサービスなので,保険会社側は必ず行わなければならない対応ではございません。

保険会社,担当者,個別の事案によって,打ち切りの目安期間や基準はまちまちですが,一般的には,打撲等の軽症の場合は1ヶ月程度,むち打ちの場合は3ヶ月程度,骨折の場合は半年程度等とされております。

 被害者のなかには,治療は続けたいが,保険会社がお金を出してもらえないのであれば,自費10割負担で通院をするのも経済的に厳しいからと,通院を断念するケースもございます。

もっとも,治療を続けたいというお気持ちがあり,医師も治療を続けるべきであると考えている場合は,保険会社の打ち切りの打診があったからといって,通院を断念する必要はございません。

打ち切りの打診を受けた場合は,まずは,次のような打ち切りの延長打診を検討することとなります。

2 打ち切りの延長の可否


治療費打ち切りの打診が保険会社からあった場合に,まず行うべきことは,医師に治療の必要性を確認することです。

保険会社は,当然ながら治療にあたっている医療機関ではなく,被害者の容態や真に治療が必要であるかを正確に判断できる由もございません。打ち切りの打診は,あくまでも保険会社の独自判断としての打診ですので,治療を打ち切るべきは,保険会社ではなく,ご自身または担当医が治療の必要性がなくなったと判断したときです。

そのため,普段から,ご自身の治療を行っている整形外科の担当医に①治療はいつまで継続すべきか,②①の期間まで治療が必要とした場合,具体的に,今後はどのような治療を行っていくべきか,③②のような治療は,現在の容態に照らして,なぜ必要なのか,を確認します。

そして,必要に応じて,保険会社「診断書」の「治ゆまたは治ゆの見込み日」「症状の経過・治療の内容および今後の見通し」欄をご記載いただき,そちらを武器に保険会社と打ち切りの延長交渉を行う場合もございます。

この交渉は,なかなか被害者ご本人は行い辛いとは思いますので,通常は,この段階で弁護士にバトンタッチをしたうえで,交渉を行うケースが多いです。

もっとも,保険会社(及び特定の担当者)によっては,医師の診断書上も明らかに治療の必要性があるにもかかわらず,治療費の打ち切り方針を曲げない場合があります。

そのような場合は,次のような対応を検討することとなります。 

3 打ち切られてしまった場合の対応

⑴ 自費通院(健康保険を利用した通院)

治療費の支払を打ち切られたからといって,通院自体は医師が必要性を否定しない限りは,当然,行うことができます(風邪を引いた場合に,誰かの許可を受けるわけではなく,病院で治療を受けるのと同じです。)。

これまで,保険会社が治療費10割分を立て替えていたので,自分で通院を継続する場合も10割負担で通院をしなければならないと誤信されている方も多くいらっしゃいますが,実は,健康保険を使用することで,3割負担で治療を行うことができます。

健康保険を使用するにあたっては,「第三者行為の傷害届」という書類を提出する必要がありますが,さほど難しい書類ではない為,こちらを作成・提出し,通院を3割負担で継続することできます。

そのような場合は,次のような対応を検討することとなります。 

⑵ 自賠責保険への被害者請求 

その他にも,相手方の自賠責保険に対して,治療費の請求を行うこともできます。

この方法は,若干申請から治療費支払いまでにタイムラグが生じる場合があり,また,既に保険会社を通じた一括対応を実施していた時点で,自賠責の負担上限120万円を超えている場合は支払われないというデメリットがあります。さらに,被害者側に過失が大きい場合や自賠責保険の審査次第では,満額が支払われないという場合もあります。

もっとも,上記⑴で説明した3割分も,自賠責保険を通じて回収できる場合があるため,極めて有用な方法となります。

※ちなみに,健康保険は,被害者に代わって支払った7割分(治療費10割-被害者自己負担割合3割)を,まずは,相手方の自賠責保険に対して,請求します。この健康保険からの請求と,被害者からの請求が競合した場合は,原則として被害者からの請求が優先することとなります。

⑶ 労災の申請 

交通事故の被害者のなかには,通勤中や勤務中の事故にもかかわらず,労災の存在を知らずに,ご相談まで治療を継続されている方も稀にいらっしゃいます。そのような場合は,労災申請を行うことで,治療費を労災に支払ってもらうことも可能です。

労災に関する詳細な説明は,以下のコラムをご覧ください。

労災と交通事故(前編)

労災と交通事故(後編)

⑷ 人身傷害保険の使用 

人身傷害保険を使用して治療費支払いの打ち切りを打診された場合は,当然使用できない方法ですが,相手方保険会社が治療費を打ち切った場合にご自身の人身傷害保険に治療費を支払ってもらえるか確認をすることも有益です。

もっとも,相手方保険会社が治療費の支払を打ち切っていることを盾に,人身傷害保険としても治療の必要性は既にないと考えている等と支払を認めない対応を取られるケースもございます。

人身傷害保険に加入している場合は,そのような支払拒絶をされる可能性があるとしても,人身傷害保険を使用してもフリート(等級)に影響はないため,打診をするだけしてみることも極めて有用です。

⑸ まとめ

治療費の支払を,相手方保険会社に打ち切られた場合は,①労災が使えれば,労災を使用する,②労災が使用できず,人身傷害保険に加入している場合は,人身傷害保険に治療費支払いの打診を行う,③これらが駄目であれば,健康保険を使用して治療を取り急ぎ継続し,後に請求出来れば,相手方の自賠責保険に対して被害者請求を検討する,という流れとなります。

4 打ち切りと弁護士へのご相談のタイミング

治療費の支払が打ち切られた場合,治療費支払いの延長が実現すれば,最も簡便かつ効果的です。この延長交渉をご本人で交渉することは,現実的には困難な場合が多いです。

治療費打ち切りの打診があった場合,または,既に打ち切られた場合は,なるべく早期に弁護士にご相談を頂きたいと思います。

特に既に打ち切られた後に,治療を行わない期間が長いと,後の交渉で不利になる可能性が高まります。

その他交通事故案件に関して,ご不安な点がございましたら,丁寧にご説明をさせて頂きますので,まずはお気軽にお問合せください。


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