交通事故にあってまず行うのは治療です。治療費の支払にあたっては次のような質問を受けることがあります。

「相手方保険会社が治療費を支払ってくれているが、労災も使えそう。労災を使ったほうがいいのか。」

「相手方保険会社が健康保険を使うように言ってきた。」

「人身傷害保険というものにも加入しているが、相手方の保険とどちらを使えばいいか。」

治療費の支払は、交通事故でお怪我をした場合は避けては通れない問題ですが、実はこの対応によって最終的に受け取れる金額が変わる場合があります。

このコラムでは、治療費をケースごとに、どのような順番で支払うのが有利か説明します。

 

【目次】

1 治療費の支払方法にはどのような方法があるか

2 治療費の支払方法によって最終的に受け取れる金額が変わる理由

3 健康保険以外の相手方自賠責保険、労災、政府保証事業、人身傷害保険も

  健康保険同様の計算ができるか

4 交通事故問題の弁護士費用の相場と当事務所の弁護士費用

5 交通事故を弁護士に依頼するメリット

 

1 治療費の支払方法にはどのような方法があるか

治療費の支払方法としては、主に次のような方法があります。

 ①自費で支払う(健康保険を利用する ※第三者行為の傷病届を提出する)   

 ②相手方保険会社(任意保険)に支払ってもらう

 ③相手方保険会社(自賠責保険)に支払ってもらう

 ④自分の勤務先等の労災を使う

 ⑤自分の加入する保険会社の人身傷害保険を使う

 ⑥政府保証事業を使用する

多くの場合は、②相手方の任意保険が支払ってくれる、もしくは一旦自分で支払って領収書を相手方の任意保険会社に送付して支払ってもらうというパターンではないでしょうか。

相手方保険会社が自転車保険の場合や、任意保険に加入していない場合は、②が使えない場合もあり、その場合は、①健康保険を使用して自費で通院するケースが多いと思います。

もし自分の保険会社に人身傷害保険が付帯していれば⑤人身傷害保険に治療費を負担してもらうこともあるかもしれません。

事故が例えば通勤中の事故等、労災が利用できる場合は、④労災の利用も検討が必要です。

相手方が任意保険にも自賠責保険にも加入しておらず、労災も使えず、自分の人身傷害保険も付帯していない場合は⑥の政府保証事業の利用を検討する必要があります。  

 

2 治療費の支払方法によって最終的に受け取れる金額が変わる理由

この理由は大きく分けて2つあります。

理由の1つ目は、過失割合を考慮すると、既払治療費からも過失相殺されてしまうという理由です。

もう少し具体的に説明します。

事例を考えます。

「治療費100万円、慰謝料50万円、こちらに3割の過失のある事故」を想定します。

この事例で、例えば②のパターン(相手方任意保険会社が治療費を支払ってくれるパターン)では、一見して相手方保険会社が治療費を全額負担してくれているかのように思えますが、実は「一旦立替払いをしているだけ」であって、後に支払う損害金から差し引くことになります。

すなわち、治療費と慰謝料の合計額は150万円ですがこちらに3割の過失があるので、

150万円×0.7=105万円

が加害者に請求できる損害額となります。

ここから既払金として100万円の治療費を相手方保険会社が支払っているので差し引き計算をします。105万円-既払治療費100万円=5万円となり、殆ど相手方からお金は受け取れないことになります。

※細かいことを言えば自賠責保険から取得できる最低額(治療費、慰謝料及び休業損害で合計120万円まで。後遺障害慰謝料は別途支払い。)は受け取れます。今回の事案では、治療費で100万円を使っているので、20万円は最低限取得できますが、説明の本筋からはずれるので省きます。

こちらが無過失の場合は、影響はないのですが、有過失の場合は、このように思わぬ差し引き計算を受ける場合があります。上記の事案では過失割合3割の事案を想定しましたが、4割、5割となってきた場合は、より一層顕著に影響が出てくることになります。

他方で、もし同様の「治療費100万円(健康保険3割負担により30万円のみ自払。70万円は健康保険が支払。)、慰謝料50万円、こちらに3割の過失のある事故」で、相手方保険会社の任意保険を使用せず、自分の健康保険で治療した場合はどうでしょうか。

この場合は、実は先ほどとは異なる計算方法を採ります。

すなわち、自分で支払った治療費30万円+慰謝料50万円=80万円が損害となり、これに3割の過失相殺をすることになります(総損害額150万円から健康保険が支払っている70万円を先に差し引く(損益相殺を先行する)ことで80万円を損害として扱う、とも言いかえられます。)。

80万円×0.7=56万円

が加害者に請求できる金額となります。

そして、仮に健康保険を利用したうえでの自己負担分30万円について相手方保険会社に請求して支払ってもらっていた場合は、30万円を既払金として控除することになります。

56万円-30万円=26万円

まったく同じ事故であるにもかかわらず、相手方任意保険会社が治療費を全額支払った場合は、5万円しか受け取れず、健康保険を先行した場合は26万円になりました。

このように過失がある事案では、どのような治療費の支払方法を選択するかで受領金額が変わってきます。

受取金額が変わるもう一つの理由としては、イレギュラーな労災の存在です。

労災は、休業特別給付というプラスアルファの加算金があります。受給要件は、①業務災害または通勤災害を原因とする傷病の療養のため、②労働することができず、③賃金を得られない状態にあることです。休業4日目から、平均賃金の2割が休業補償に上乗せされた状態で支給されます。

休業が4日を超える場合は、こちらも視野に入れて検討する必要があります。

 

3 健康保険以外の相手方自賠責保険、労災、政府保証事業、人身傷害保険も健康保険同様の計算ができるか

結論としては、原則としてできません。一部例外もあるのでご説明します。

⑴ 健康保険

前記2で説明したとおり、健康保険は治療費のうち自己負担額とその他の損害を合計した額を総損害額として、ここから過失相殺をします。そのため、手取額が増額します。なぜ、健康保険はこのような特別な取り扱い(総損害額から健康保険が負担する7割分を先行して控除して、その残りから過失相殺)をするのか、という点について裁判例は、社会保障の一環であるから、と理由づけております(名古屋地判平成15年3月24日)。

⑵ 相手方自賠責保険・相手方任意保険・政府保証事業

自賠責保険と相手方任意保険は同じ相手方の保険として一体で評価するため、健康保険同様の計算方法は採用できません(相手方任意保険を先行する場合と同じ計算方法をとります。)。

もっとも、前記1※で説明したとおり、治療費と損害額120万円までは支払われますので、損害が少額の場合(120万円以下の場合)は、相手方任意保険や相手方自賠から治療費を受領しても影響は少ないです。

ただし、治療段階では、どれくらい治療期間がかかるのか、後遺症が付くかも分からない場合が殆どかと思われますので、なかなか総損害額120万円にかけて治療費の支払方法を決定することはリスクと思われます。

なお、実務上、政府保証事業も同様の計算方法を採用しております。

⑶ 労災

労災は、実務上、原則として相手方任意保険や自賠責保険を先行する場合と同様の取り扱いをします。

もっとも、健康保険同様の計算方法を採用する裁判例もあるため、個々の事案ごとに弁護士に相談するべきです。

また、過失割合が大きくない場合は、健康保険方式の計算方法を採用できないリスクがあったとしてもなお、休業特別給付を狙う観点から労災の方が有利という判断もあり得るため、ここもよく弁護士と相談するべきです。

⑷ 人身傷害保険

人身傷害保険は、これまで説明してきたいずれとも異なる計算方法を採ります。

実務では、過失相殺後の損害賠償額から人身傷害補償保険金を損益相殺する際に、人身傷害補償保険金額から先に計算した過失相殺額を控除した金額を限度に損益相殺を認めるという考え方である訴訟差額基準説という説に立脚し、計算を行います。

誤解を恐れず敢えて一言でいえば、「過失がある場合は、前記相手方自賠責保険・相手方任意保険・政府保証事業、労災よりは有利で、健康保険よりは不利」な計算となります。

もっとも、健康保険とは異なり、一時的に3割分を自ら建て替える必要もなく、相手方が無保険の場合は人身傷害保険を先行する方が有利な場合が殆どかと思われます。そのため、人身傷害保険が付帯しており、かつ、過失がある場合は、健康保険と共に極めて有力な選択の一つとなります。

なお、この訴訟差額基準説は、任意の交渉段階では相手方保険会社は否定してくる場合もままあり、紛争処理センターや訴訟提起が必要になる可能性は予め考慮しておく必要があります。

 

4 交通事故問題の弁護士費用の相場と当事務所の弁護士費用

⑴ 弁護士費用の相場(税別)

弁護士費用は、各事務所が自由に決定することができます。そのため、画一的な価格は存在しません。
そのなかで、ひとつの相場となるのが、LAC基準と言われる基準です。
LACとは、日弁連リーガル・アクセス・センターの略称で、自動車保険や共済が、日弁連と協定を結んで制度を運用している基準となります。
こちらの基準では、弁護士費用を、事件又は法律事務の依頼を受けたときに生じる「着手金」と事件等の処理が終了したときに生じる「報酬金」に分けて説明しております。
同基準に基づくと、遺産分割の弁護士費用は次のとおりとなります(税別)。

経済的利益の額

着手金

報酬金

125万円以下の場合

10万円

経済的利益の16%

300万円以下の場合

経済的利益の8%

経済的利益の16%

300万円を超え3000万円以下の場合

経済的利益の5%+9万円

経済的利益の10%+18万円

3000万円を超え3億円以下の場合

経済的利益の3%+69万円

経済的利益の6%+138万円

3億円を超える場合

経済的利益の2%+369万円

経済的利益の4%+738万円

⑵ 当事務所の弁護士費用(税込)

【弁護士費用特約が付いている場合】

原則として無料ですぐに相談できます。

※弁護士費用特約が付いている場合、保険会社から相談料と着手金をお支払いいただけるため、自己負担なく弁護士へのご相談・着手が可能です。

※弁護士費用特約とは? ご契約の保険会社ごとにサービス内容は異なるのですが、弁護士に関する費用を保険会社の約款に従ってお支払いいただけるサービスです。ご本人が加入されていなくても、ご家族がご加入されている自動車保険で特約を受けられるケースがあります。ご自身だけでなくご家族の自動車保険に弁護士特約が付いていないか、ご確認されることをお勧めします。また、火災保険等にもついている場合もあります。自動車保険以外でご加入中の保険がありましたら、一度ご確認ください。

※弁護士費用は保険会社へ請求いたしますので、原則として相談料・着手金については、ご本人に実質的なご負担はありません。

※報酬金については、ご依頼いただいた事件の賠償額やご契約の保険内容によりますが、自己負担額はゼロ円となる場合もあり、負担が発生したとしてもかなりの割合を保険会社が負担していただける場合が多いです。

詳細は、ご来所いただいた際に、図示しながら丁寧にご説明させて頂きます。

【弁護士費用特約が付いていない場合】

当事務所の交通事故問題の報酬基準は次のとおりです。

交通事故

(弁護士費用特約の利用がない場合

 

着手金

報酬金

交渉

0円

回収金額の11%+22万円

ADR

22万円

訟訴

33万円

※ADRから訴訟に移行した場合は着手金22万円で承ります。


※当事務所では、弁護士費用特約がついていない場合でも、交渉は原則として着手金無料ご依頼を承っております。
※相手方が無保険の場合は交渉段階であっても着手金を頂戴します。詳細は相談時にご説明いたします。
※人身傷害保険との交渉や労災との交渉をご依頼の場合は別途相談時にご説明いたします。

 

5 交通事故を弁護士に依頼するメリット

治療ひとつをとっても本コラムで解説したとおり、複雑な問題があります。

この選択を誤ると受領金額に影響します。

本コラムの問題は交通事故でいえば、いわば入口の問題で、ここから更に金額に影響する個別の検討事項が広がっていきます。

弁護士に依頼することで、法的に誤りのない解決に近づけ、納得のいく解決に繋がります。

また、相手方担当者と直接交渉する必要はなくなるため、ストレスを軽減し、時間も有効活用できます。

弁護士に依頼すべきかどうかも含め、何か少しでもお悩みの際は、当事務所でお力になれる可能性がありますので、まずはお気軽に弁護士までご連絡いただければと思います。

 

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