債務整理の手段として自己破産を選択する場合がありますが、破産に至った経緯は人それぞれです。

「ギャンブルや浪費、FXなどの投機行為で借金が増えてしまった場合でも破産はできるのでしょうか。」

「クレジットカードの現金化を行い、債務が増えてしまった場合でも破産はできるのでしょうか。」

このようなご質問は、多くのお客様から寄せられる質問です。

このコラムでは、自己破産の際に「借金をゼロにする」手続である免責手続の免責不許可事由がある場合の免責(裁量免責)についてご説明します。

 

【目次】

1 免責手続とは

2 免責許可が行われるのはどのような場合か(免責許可の要件)

3 実務上よく問題となる免責不許可事由

4 裁量免責とは

5 弁護士に破産手続を依頼するメリット(デメリット)

6 破産の弁護士費用の相場と当事務所での費用

7 弁護士費用等の分割払いの可否

8 おわりに

 

 

1 免責手続とは


自己破産すれば債務(借金)が帳消しになる(借金がゼロになる)とお考えの方は多いと思いますが、実は自己破産のみでは借金は帳消しにはなりません。
借金の帳消しには自己破産とは別に裁判所に対して免責許可の申立てを行い、免責許可を得る必要があります。
簡単に言えば、破産者の財産を清算して債権者に公平かつ適切に配当を行うのが破産手続であり、配当を行っても残る債務につき破産者が責任を免れることの許否を判断するのが免責手続です。

※免責の対象の債権は基本的にほとんどの債権が対象ですが、租税等の請求権、破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権、破産者が扶養義務者として負担すべき費用に関する請求権など一定の債権は、非免責債権として免責がされないので注意が必要です。

 

2 免責許可が行われるのはどのような場合か(免責許可の要件)


裁判所は、免責の申立てがあった場合に、破産法が定めている免責をしてはいけない事由(免責不許可事由、破産法252条1項各号)のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定を行うこととしています(破産法252条1項柱書)。
すなわち、その免責不許可事由に該当しない限り、免責を得ることができるのです。
また、仮に免責不許可事由に該当してしまっても、後述するように、裁判所はその裁量により免責を行うことができるとされています(裁量免責、破産法252条2項)。

 

3 実務上よく問題となる免責不許可事由


破産法は、252条1項各号において免責不許可事由を定めていますが、実務上では以下の事由がよく問題となります。

(1) 浪費・射幸行為(偶然の利益や成功を目的とした行為)

破産法252条1項4号は、浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したことを免責不許可事由として規定しています。実務上、この免責不許可事由は一番問題となります。
具体的には、ギャンブルやブランド物の購入、風俗店の利用、飲食費、英会話や自己啓発のセミナーの受講、携帯ゲームの課金、商品先物取引やFXなどの投機的行為などです。

(2) 不当な債務負担行為、不利益処分行為

破産法252条1項2号は、破産者が、破産手続開始を遅延させる目的で、①著しく不利益な条件で債務を負担し、又は②信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分する行為を免責不許可事由と規定しています。
実務上よく見られる具体例としては、破産者が、破産手続開始の前段階で、もはや自己の収入では弁済期にある債務の返済ができないのに、破産によらず債務の返済を続けるために闇金から著しく高金利の借入れをする事例(上記①の場合)や、クレジットカードで金券等を購入して、直ちにこれを購入代金よりも著しく低い金額で売却や質入れをして換金する事例(上記②の場合)です。

(3) 不当な偏頗(へんぱ)行為

破産法252条1項3号は、破産者が、特定の債権者に対する債務について、その債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で、担保の提供又は債務消滅行為(弁済等)であって、自らの義務に属せず、又はその方法若しくは時期が自らの義務に属しない行為を行うことを、免責不許可事由と規定しています。
これは、多数の借入れを行っている中、親族や友人などを優先して弁済してしまう場合が典型例です。破産手続では全債権者を平等に扱うことが求められているため、免責不許可事由とされています。

(4) 詐害目的で行う不当な破産財団価値減少行為

破産法252条1項1号は、債権者を害する目的で、破産財団に属し、又は属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたことを免責不許可事由として規定しています。破産財団とは、破産者が破産手続開始の決定時に有している財産のことです(破産法34条1項)。
これは、破産することにより特定の財産が換価されるのを防ぐために、あらかじめ他人にその財産を贈与したり隠匿を行ったり、法外な廉価売却を行った場合に問題となります。

(5) 破産・免責手続上の義務を怠り、手続の進行を妨害する行為

破産法は、破産者に対し、破産管財人等に対する説明義務(破産法40条)や、重要財産開示義務(破産法41条)などの義務を課しており、これらの義務に違反することは免責不許可事由となります(破産法252条1項11号)。
また、破産手続での裁判所の調査に対する説明拒否、虚偽説明(同項8号)、不正手段による破産管財人等の職務を妨害する行為(同項9号)も免責不許可事由となります。

 

4 裁量免責とは 


以上が、実務上よく問題となる免責不許可事由ですが、これらの事由に該当した場合、直ちに免責不許可になるわけではありません。免責不許可事由に該当する場合でも、裁判所は、破産手続開始に至った経緯その他一切の事情を考慮し、免責許可をすることができるとされています。これが、裁量免責(破産法252条2項)です。
実務上、免責不許可事由が存在する場合でも、その程度が軽微であれば破産者の経済的更生の観点から裁量免責が認められており、また、直ちにはその程度が軽微とはいえない場合でも、詐害性、不誠実性の著しい事例を除けば、諸般の事情を考慮して裁量免責が行われる場合があります。
裁量免責を行うかどうかは、明確な基準があるわけではなく、免責不許可事由に該当する行為の内容や程度、破産者の経済的更生の見込み、破産者が破産手続に誠実に協力したか(特に破産管財人に適切に情報を開示したか)などの様々の事情を考慮した上で判断されますが、重要なのは裁判所に裁量免責が相当であると判断してもらうために適切な対応を行うことです。そして、その適切な対応を行うために、弁護士には借金の経緯や免責不許可事由に該当する行為を素直にお話いただくことが重要です。弁護士に隠し事をしてしまうと、弁護士が適切な対応ができなくなり、裁量免責を得ることができなくなる可能性があります。

 

5 弁護士に破産手続を依頼するメリット(デメリット)


(1) メリット

① 破産手続は弁護士以外の士業では代理人になれない

借金を帳消しにできる破産(免責許可申立)手続ですが、この手続は司法書士等の他士業では代理人になれません。
また、他士業が書類作成だけをして本人が申し立てるケースもあると聞いておりますが、そのような方法の場合は、裁判所に支払う費用が高くなります(東京地方裁判所民事20部の場合は、弁護士が申し立てた場合は、本人申立てよりも20万円ほど安くなる場合が多いです。)。
基本的には、破産手続を検討する場合は、弁護士に依頼をしたうえで手続を進めるべきといえます。

② 債権者からの督促が止まる・返済不要となる

弁護士に依頼をした後は、依頼から間もなく、債権者に対して受任通知を発送します。
受任通知とは、債権者に対して、もう支払いはできないので今後は支払いを停止すること、今後の連絡は弁護士に対してするようにお知らせする通知文です。
受任通知を受け取った場合、貸金業者は、貸金業法21条1項9号により債務を弁済することを要求することができなくなります。債権回収業者(いわゆるサービサー)は、債権管理回収業に関する特別措置法(サービサー法)18条8号により債務を弁済することを要求することができなくなります。
そのため、督促が止まり、平穏な生活を送りつつ、破産手続に臨むことができるようになります。
もちろん、手続が進み、免責許可決定が得られた場合は、借金が帳消しになり返済不要となっておりますので、再度督促がくることはありません。

③ 裁判所を説得する書類の作成・資料の収集ができる⇒免責が得られやすくなる

破産手続を選択したとしても、個人の方の場合は最終的に借金を帳消しにする免責の判断が得られなければ意味がありません。
当事務所では、どのような主張をすれば、免責許可決定が出やすいか裁判例や文献、これまでの実務の蓄積に基づき事案ごとに分析・検討して、主張していきます。
煩雑な申立手続や主張の構成、本当に必要となる資料の収集などを弁護士に任せることができる点は、スムーズな事件の進行と免責許可決定にも繋がり、大きなメリットとなります。

④ 債権者や裁判所との間でやりとりをしなくて済む

ご依頼を頂いてからは弁護士が窓口となるため、債権者と直接やりとりをすることは基本的にはございません。
また、裁判所に申し立てた後は、面接の際に同行頂く場合はありますが、常に弁護士が隣におり、安心して手続にお臨みいただけます。

 

(2)デメリット

上記のとおり、ご自身で破産手続を実施した場合は裁判所に納める申立費用が高額になることもあり、「弁護士に依頼するデメリット」自体はないと考えております。

ここでは、「破産手続」一般にいわれるデメリットということでお話します。


① 時間と費用がかかる

破産手続は、個人の方で原則的な形態である管財事件となった場合、裁判所の費用として22万円程度、弁護士費用として、着手金・報酬金合わせて40万円程度はかかります。時間も、たとえばこれらの費用を月5万5000円ずつの分割払いとした場合は、積み立てが完了するまでに1年程度かかる場合もあります。
もっとも、破産手続を選択される状況の方は、このような費用と時間をかけたとしても、消せる借金額の大きさから、デメリットを上回るメリットがあるケースがほとんどです。


② 一定の財産を手放す必要がある

破産をする場合は、一定の財産は換価して債権者への弁済に充てる必要があります。
もっとも、多くの方が誤解している点としては、「意外に残せる」という点です。破産手続は、今後の経済的な更正を考えて手続を進めることとなります。そのため、経済的更生に必要な財産は、自由財産として残すことができます(破産法34条3項4項参照)。
東京地方裁判所民事20部の運用では、現金であれば99万円、預貯金であれば20万円まで残せるので実に119万円まで残すことができます。
車についても、その評価額次第では残すことができる場合もあります。
デメリットと考えていたことが、そこまでデメリットではない場合もあるので、この点はまずは弁護士までご相談ください。


③ 職業、資格の制限が発生する

破産手続が実施されると免責許可決定後の復権までの期間、資格が制限されます。その資格制限期間は事案によりまちまちですが、一般的に特に問題点のない破産手続であれば3ヶ月程度とされております。
具体的には、士業一般、警備員(警備業法14条1項)、後見・保佐・補助(民法847条等)、会社と委任契約を締結する取締役(破産により委任契約が当然終了します。民法653条2号)等で問題が生じるケースがあり、この点は個別に弁護士までご確認を頂く必要があります。


④ ブラックリスト・官報に掲載される

破産手続を開始した場合は信用情報機関に事故情報として登録されることになります。これを一般的にはブラックリストに登録されるといいます。
一度登録されると5年から7年程度掲載されることとなりますが、キャッシュカードの利用や銀行の利用ができなくなるわけではないので、日常生活で困ることは必ずしも多くはないといえます。
住宅ローンを組む際には、事故情報を考慮され、融資が通りづらくなる場合はございます。
あとは、官報という雑誌に掲載されます。こちらは、インターネットで公開される情報ではないため、通常、破産をしたことは他の人には分かりません。

 

6 破産の弁護士費用の相場と当事務所での費用

(1) 弁護士費用の相場

弁護士費用は、各事務所が自由に決定することができます。そのため、画一的な価格は存在しません。
そのなかで、ひとつの相場となるのが、かつて弁護士費用を日本弁護士連合会が定めていた時代に使用していた「(旧)日本弁護士連合会報酬等基準」です。 こちらの基準では、弁護士費用を、事件又は法律事務の依頼を受けたときに生じる「着手金」と事件等の処理が終了したときに生じる「報酬金」に分けて説明しております。
同基準に基づくと、着手金は、「資本金、資産及び負債の額、関係人の数等事件の規模並びに事件処理に要する執務量に応じ、20万円~50万円以上」とされております。
報酬金は、「免責許可決定を受けたときに限り発生し、配当試算、免除債権額、延払いによる利益、企業継続による利益等を考慮して算定する」とされております(個別の金額の明示はなし)。


(2) 当事務所の弁護士費用

旧日本弁護士連合会の基準によると、着手金が固定ではなく、報酬金もケースにより金額が前後することからご依頼し辛い場合がございます。
そのため、当事務所では、旧報酬基準を若干変更し、よりご依頼をしやすく固定費用形態としております。具体的な、当事務所の基準は次のとおりです。

※税込表記です。

自己破産

着手金

報酬金

同時廃止手続

27万5000円

同時廃止手続
11万円


管財手続
38万5000円

個人事業主
49万5000円

 管財手続
5万5000円 

 

7 弁護士費用等の分割払いの可否

弁護士費用や裁判所費用の分割払いを認めるかどうかは、各事務所によって異なります。裁判所の費用は、時期と申し立てる裁判所にもよりますが、東京地方裁判所の場合は破産管財事件の場合は、概ね22万円程度要します。
当事務所では、月額55000円以上をお支払い頂ける場合は分割払いでのお支払いを承っております。
ご依頼後は、弁護士による受任通知の発送により、債権者からの請求が止まるため、止まった分を弁護士費用等のお支払いに充てていただくイメージとなります。

 

8 おわりに

借金でお悩みの方は、非常に増えております。
破産手続は一昔前よりも非常に身近な手続といえるかもしれません。
お悩みの際はまずは一度弁護士までお気軽にご相談ください。

 

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