配偶者の不貞相手に慰謝料を請求している方、反対に不貞慰謝料を請求されている方にとって、自己破産は大きな影響を及ぼします。

「相手が自己破産したら慰謝料はもう請求できないのか」
「不貞慰謝料は非免責債権として破産後も残るのか」
という問題が生じるためです。

結論を先取りすると、不貞慰謝料は常に非免責債権になるわけではありません

通常の不貞行為による慰謝料は、破産による免責の対象となる可能性が高いといえます。
他方で、単なる不貞を超えて、相手方配偶者を積極的に害する意思、すなわち破産法253条1項2号にいう「悪意で加えた不法行為」と評価される事情がある場合には、非免責債権として支払義務が残る可能性があります。

本稿では、条文と裁判例の到達点を踏まえて、この問題を整理します。

目次
1 破産免責と非免責債権
2 「非免責債権該当」と「裁量免責」は別の問題
3 「悪意」とは単なる故意ではない
4 裁判例の紹介 ― 害意を肯定した例・否定した例
5 非免責債権かどうかを判断するのは破産裁判所か
6 非免責債権があっても、他の債権は免責されるのか
7 実務上の注意点
8 まとめ


1 破産免責と非免責債権

自己破産では、裁判所による免責許可決定が確定すると、破産者は原則として破産債権について責任を免れます。
もっとも、破産法253条1項は、免責許可決定が確定しても責任を免れない債権、すなわち非免責債権を定めています。
租税等の請求権(1号)、養育費等(4号・5号)などがその例です。

不貞慰謝料との関係で問題となるのは、次の2つの類型です。

  • 破産法253条1項2号:破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
  • 破産法253条1項3号:破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(2号に掲げる請求権を除く。)

不貞行為は配偶者に対する不法行為となり得ますが、不法行為に基づく慰謝料だからといって直ちに非免責債権になるわけではありません。
問題は、その不法行為が2号の「悪意で加えた」といえるかどうかです(不貞慰謝料は精神的損害の賠償であり、通常は3号の「人の生命又は身体を害する」類型には当たりません)。

2 「非免責債権該当」と「裁量免責」は別の問題

不貞慰謝料をめぐっては、非免責債権に当たるかという問題と、裁量免責がされるかという問題が混同されがちですが、両者は別の問題です。

項目非免責債権裁量免責
根拠条文破産法253条1項破産法252条2項
問題となる場面免責許可決定が出ても支払義務が残る債権か免責不許可事由があっても裁判所が免責を許可するか
判断対象個別の債権ごと破産者全体について免責するか
効果当該債権だけは免責の効力が及ばない通常の破産債権は免責される
判断主体争いがあれば通常は民事訴訟等で判断破産裁判所が免責手続で判断

破産法252条1項は、浪費・賭博による著しい財産減少(4号)、財産の隠匿(1号)、虚偽説明(8号)などの免責不許可事由を定めています。
しかし、これらの事由がある場合でも、裁判所は破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を相当と認めるときは、裁量で免責を許可することができます(同条2項)。これが裁量免責です。

これに対し非免責債権は、免責許可決定が確定しても免責の効力が及ばない個別の債権です。
したがって、仮に破産者が裁量免責を受けたとしても、不貞慰謝料が破産法253条1項2号の非免責債権に該当する場合には、その慰謝料債務は残ります。

3 「悪意」とは単なる故意ではない

破産法253条1項2号の「悪意」は、日常用語の「悪いことだと知っていた」という意味や、民法上しばしば用いられる「知っていた(=善意の対義語)」という意味とは異なります。

裁判例・実務上、ここでいう「悪意」とは、単なる故意を超えて、相手方を積極的に害しようとする意思、いわゆる積極的な害意を意味すると解されています(旧破産法下のものとして東京地判平成13年5月29日、神戸地判明石支部平成18年6月28日等)。
この解釈は、現行破産法が同項3号として「故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為」という別個の類型を設けたこととも整合します。
3号が「故意又は重大な過失」を要件とする以上、2号の「悪意」を単なる故意と同義に解すると3号を設けた意味が乏しくなるため、2号の「悪意」は故意を超えた積極的な害意を意味すると解されるのです(後掲・東京地判平成28年3月11日も同旨)。

したがって、不貞相手が
「既婚者であることを知っていた」
「不貞行為により配偶者が精神的苦痛を受けることを認識していた」
というだけでは、通常は「悪意」に当たりません。

不貞行為が婚姻共同生活の平和の維持という利益を侵害することの認識があっても、それは故意が認められるにとどまります。

4 裁判例の紹介 ― 害意を肯定した例・否定した例

近時の裁判例を、破産法253条1項2号の「悪意(積極的な害意)」を否定したものと肯定したものに分けて整理します。

(1) 害意を否定し、非免責債権該当性を否定した裁判例

① 東京地判平成15年7月31日(2003WLJPCA07310013)

不貞をされた妻から夫の不貞相手(破産済)に対する慰謝料請求の事案
裁判所は、「破産法366条の12但書は「悪意をもって加えたる不法行為」に基づく損害賠償請求権は破産による免責の対象とならない旨を規定するが、正義及び被害者救済の観点から悪質な行為に基づく損害賠償請求権を特に免責の対象から除外しようとするその立法趣旨、及びその文言に照らすと、「悪意」とは積極的な害意をいうものと解される。故意とほぼ同義という原告の解釈は採用できない。本件の場合、不貞関係が継続した期間は少なくとも約5年にも及び、しかもCの離婚を確認することなく結婚式を挙げたという事情もあるから、不法行為としての悪質性は大きいといえなくもないが、本件における全事情を総合勘案しても、原告に対し直接向けられた被告の加害行為はなく、したがって被告に原告に対する積極的な害意があったと認めることはできないから、その不貞行為が「悪意をもって加えたる不法行為」に該当するということはできない。したがって、被告の不貞行為すなわち不法行為に基づく損害賠償責任は免責されたということになる。」として、非免責債権該当性を否定しました。

② 東京地判平成21年6月3日(2009WLJPCA06038007)

原告であるX(夫)と婚姻していた被告Y1(妻)が被告Y2(不倫相手の男性、破産済)との不貞行為に及ぶなどしてXに精神的苦痛を与えたとして、XがYらに対し、不法行為に基づき慰謝料の支払いを請求した事案。
裁判所は、「破産法253条1項柱書及び3号は,破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権は,免責許可の決定が確定したときであっても,破産者がその責任を免れるものではない旨を定めているが,破産者の不貞行為に基づく損害賠償請求権は,たとえそれが故意又は重大な過失によるものであるとしても,上記の「人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権」と同視すべきものであると解することまではできない。そのほか,被告Y2が破産法253条1項2号の悪意,すなわち積極的な害意をもって被告Y1の不貞行為に加担したことを認めるべき証拠は存在しない。したがって,この点に関する原告の主張は,これを採用することができず,被告Y2は,免責許可決定の確定により,原告が訴求する損害賠償請求権について,その責任を免れたものといわなければならない。」として、非免責債権該当性を否定しました。

③ 東京地判平成28年3月11日(判タ1429号234頁)

原告である妻から、夫との不貞相手(被告、破産済)に対する慰謝料請求の事案。
裁判所は、「本件においては,上記認定及び説示したとおり,被告の,Aとの不貞行為の態様及び不貞関係発覚直後の原告に対する対応など,本件に顕れた一切の事情に鑑みると,被告の不法行為はその違法性の程度が低いとは到底いえない。しかしながら他方で,本件に顕れた一切事情から窺われる共同不法行為者であるAの行為をも考慮すると,被告が一方的にAを篭絡して原告の家庭の平穏を侵害する意図があったとまで認定することはできず,原告に対する積極的な害意があったということはできない。原告の被告に対する慰謝料請求権は破産法253条1項2号所定の非免責債権には該当しないといわざるを得ない。よって,原告の慰謝料請求権につき,被告は法律的には責任を免れ,強制執行を予定した債務名義たる判決においてその請求を認容することはできないこととなったというほかはない。」として、非免責債権該当性を否定しました。本判決は「悪意」を故意を超えた積極的な害意と明示した点でも実務上重視されています。

④ 東京地判令和2年11月26日(平成29年(ワ)第24137号)

原告である夫から、妻との不貞相手(被告、破産済)に対する慰謝料請求の事案。
裁判所は、「不貞行為が不法行為となるのは,婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為ということができるからであることに鑑みると,夫婦の一方と共に不貞行為を行った者が,当該夫婦の他方が有する婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害するとの認識を有するだけでは,故意が認められるにとどまる。このような者に害意を認めるためには,当該婚姻関係に対し社会生活上の実質的基礎を失わせるべく不当に干渉する意図があったことを要するものというべきである。これを本件についてみるに,既に認定説示したところに照らし,被告及びAの不貞関係において,被告が一方的にAを篭絡して本件不貞行為に及んだなどの事情は認められない上,Aは,原告と別居した際,未成年の子を連れておらず,夫婦共有財産を持ち出したものでもなく(原告本人〔調書28,29頁〕,弁論の全趣旨),被告がAに対しこれらの行為を唆したともいえない。そうすると,本件不貞行為の際,被告において,本件婚姻関係に対し社会生活上の実質的基礎を失わせるべく不当に干渉する意図,すなわち原告に対する害意があったとまでは認められない。なお,被告が,Aに対し,離婚に関する制度や法的手続等を教示したか否かは,上記認定を左右する事情とはいえない。」として、害意を否定しました。

⑤ 東京地判令和3年12月2日(2021WLJPCA12028005)

夫が不貞相手(破産済)に対し、裁判で勝訴し、勝訴判決に基づき強制執行をしたことに対し、不貞相手が請求異議訴訟を提起した事案。つまり、原告が不貞相手、被告が夫という事案。
裁判所は、「認定事実によっては,原告が被告に対して害意を有していたと認めることはできない。すなわち,①原告は,Aとの不貞行為を継続する中で,少なくとも被告が血圧に関連する疾病のため入院し,場合によっては命にかかわる状態であることを認識していたものであるが(認定事実(2)),原告においてAとの不貞行為の継続中に被告の病気を知ったことにより,被告に対する認識が害意に転化するものとはいえない。また,②原告が,Aとの不貞行為が被告に発覚した後も同不貞行為を継続し,Aと被告との婚姻関係が終了する前から同棲生活を開始したこと(認定事実(11))も,不貞行為における加害者の故意を超える害意を基礎づけるものとはいえない。そして,③原告は,弁護士らが発出した通知書を無視(このうち内容証明郵便については他人を装って受領を拒絶)しているところ(認定事実(9)),このような原告の行為は,被告からの責任追及を意図的に回避しようとするものと評価することができるものの,被告に対する害意があったと評価することはできない。
そして,証拠(原告本人)によれば,原告においては,Aとの新生活を早く始めたいという願望を抱き,また,被告が病を得たことを知ってその死を望むような心境に至ったこともあったことが認められるが,不貞行為に及ぶ者は,その相手方たる既婚者に対する恋愛感情ゆえにその独占を志向するのが一般というべきであるから,上記のような願望ないし心境も,不貞行為における故意に内包されるものというべきである。
そのほか,原告において被告に対する害意を有していたと認めるに足りる証拠はない。」として、害意を否定しました。「悪意」が認められるハードルの高さを示す事例といえます。

(2) 害意を肯定し、非免責債権該当性を肯定した裁判例

⑥ 東京地判令和3年9月14日(2021WLJPCA09148010)

認諾調書に係る認諾後に破産し免責決定を受けた元夫(不倫をした側)が,本件認諾調書に基づく強制執行の不許を求める事案。
裁判所は、以下の事情から非免責債権に該当する旨、判示しました。単純な不貞のみではなく脅迫行為もある点や、自ら和解書を取り交わし、裁判上も請求認諾の和解をしている点等の特殊性がある事案です。
「1(1) 脅迫行為(本件和解①前段)について
当該行為の内容が害悪の告知を要素とする脅迫であること,前記認定事実のとおり,それをわざわざ本件和解において示談書に記載した上で一方的に陳謝していること,被告において原告を刑事告訴するか否かが慰謝料の履行の有無にかからしめられていたことからすれば,原告の行為は「悪意」(すなわち被害者への加害の意図)ある行為であったと推認され,これを覆すに足りる的確な証拠はない。
(2) 不貞行為(本件和解①後段)について
前記認定事実のとおり,原告は平成18年に一度不貞行為をし,今後そのような行為に及ばない旨誓約しながらも,Aとの不貞行為に及んだものである。少なくともそのような経緯のある本件については,余程の特殊事情がない限りは,「悪意」がある行為であったと推認されるというべきである。然るに,前記認定事実のとおり,原告は,示談書にて不貞を陳謝し,他の事情と相俟って多額の慰謝料の支払を認めており,この点からすれば,Aとの不貞行為については弁解の余地のないものであったと推認され(当然のことながら,上記した「悪意」の存在を否定する余程の特殊事情などはなかったものと推認され),これを覆す的確な証拠はない。
(3) 離婚について
前記(1)(2)が離婚の大きな原因となっていると評価できることからすれば,原告の「悪意」ある不法行為により被告において離婚を余儀なくされたといえるから,本件和解金支払請求権は全体として非免責債権に該当するというべきである(多額の借金を負い債務整理を要する事態となったり,被告のカード・貯金や子の預金を注ぎ込んだりするなど,原告には生活に影響を及ぼすほどのギャンブル(パチスロ)への依存傾向があり,これを憂慮した被告が治療を勧めたのを原告が拒否したという経緯(この限度で概ね当事者間に争いがない。さらに,証拠(乙2,3)及び弁論の全趣旨によれば,その後もパチスロを続けていたと認められる。)がある中で,再度の不貞行為や脅迫行為が生じたことからすれば,不貞行為さらに上記脅迫行為を経て離婚に至る経緯に「悪意」を否定する要素は見出せない。)。
(4) 以上によれば,本件和解金請求権は,全体として,非免責債権に該当するというべきである。」

⑦ 東京地判令和5年6月22日(2023WLJPCA06228010)

元配偶者に対する慰謝料請求の事案。裁判所は、婚姻関係が破綻していたとの抗弁を排斥したうえで、被告は原告の貞操権を侵害することを知りながら、あえて不貞行為に及んだといえるとして、当該慰謝料請求権は破産法253条1項2号の「悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」に該当すると判断しました。
少なくとも判決文中からは、害意の認定を行っていることは読み取れませんでした。背景としては、そもそも不貞慰謝料自体を争っており、悪意に関して何ら主張をしていなかった点が影響している可能性があると思われます。コラム作成者としては評価の分かれる裁判例なのではないかと感じました(一般化はできない裁判例なのではないかと感じました。)。

⑧ 東京地判平成17年12月20日(判例秘書 L06034849)

裁判所は、「認定した事実によれば,被告は,婚姻当初から,生活費の負担をほとんどしない一方,他の女性と交際し,原告からこれらの点を指摘されると度々暴力をふるうといった身勝手な行動を繰り返した末,両者の婚姻関係を破綻させたものと認められ,このような被告の言動は,総体として不法行為を構成するというべきである。そして,被告は,長男の学費の負担すら拒否する一方,自らは自動車を購入し,クラブ等での飲食を繰り返して多額の借金を抱えて破産するまでに至っており(被告自身,約870万円の借金のうち,家庭のために支出した分は1割に満たず,その余は自動車の経費と飲み代に費消した旨供述しており,しかも被告の平成16年9月15日付け答弁書と題する書面によれば,被告のいう家計のための支出には借金返済のための借入れ等も含まれていることが認められる。),また,原告に対する暴行の内容も,受話器を投げ付けて出血させたり,肋骨にひびを入らせるといった激しいもので,しかも,原告のみならず,子供たちにも及んでおり,その態様は悪質で違法性は強く,これによって原告は,多大の精神的苦痛を受けたものと認められる。もっとも,原告は,被告の暴行等によっていわゆるPTSDに罹患したかのように供述するが,これを裏付けるに足りる証拠はない。その他,本件に現れた一切の事情を考慮すると,原告の慰謝料としては,350万円が相当というべきである。なお,被告は免責許可決定を得ているが,本件の慰謝料請求権は破産法253条1項2号の悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権に該当するというべきであるから,その支払責任を免れるものではない。」として悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権に該当すると判示しました。
不貞のみの慰謝料ではなく、暴力等を含む一連の行為が問題となったもので、裁判所は、これらを総体として不法行為を構成するとした点に特殊性があります。「不貞慰謝料が当然に非免責になる」という趣旨の判決ではなく、不貞を超えた悪質な事情が重視された事例として位置づけられるものと考えられます。

(3) 整理

これらの裁判例からは、不貞行為が長期間継続したこと、結婚式を挙げたこと、相手が既婚者と知っていたこと、発覚後も不貞や同棲を続けたことといった事情があっても、それだけでは「悪意(積極的な害意)」は認められにくいことが分かります。

他方で、非免責債権該当性が肯定された事例では、脅迫(令3.9.14)、過去の誓約に反する再度の不貞(令3.9.14)、暴力等を含む一連の行為(平17.12.20)といった、不貞それ自体を超える加害的・悪質な事情が認定されています。

不貞慰謝料が非免責債権と認められるかどうかは、不貞行為の悪質性や被害の大小そのものよりも、通常の不貞の故意を超えた積極的な害意を基礎づける具体的事情があるかによって決まる、というのが裁判例の一つの傾向といえます。

5 非免責債権かどうかを判断するのは破産裁判所か

不貞慰謝料が非免責債権に当たるかどうかについて、破産手続の中で破産裁判所が個別に判断してくれるわけではありません。
破産裁判所が判断するのは、破産者について免責許可決定を出すかどうか、すなわち免責不許可事由の有無や裁量免責の可否です。これに対し、特定の慰謝料債権が破産法253条1項2号の非免責債権に当たるかは、争いがあれば、免責許可決定後の通常の民事訴訟の中で、受訴裁判所が判断するのが原則です。典型的には次の流れになります。

  1. 破産者が免責許可決定を受ける
  2. 慰謝料債権者が破産者に対して支払を求めて訴えを提起する
  3. 破産者が「免責された」との抗弁
  4. 債権者が「破産法253条1項2号の非免責債権である」との再抗弁
  5. 受訴裁判所が非免責債権該当性を判断する

なお、債権者が破産手続開始前から確定判決等の債務名義を有している場合には、破産者の側から請求異議の訴えを提起し、その中で免責の効力(および非免責債権該当性)が争われることになります。また、破産債権者表に債権が記載され確定した場合、同表は破産手続終結決定により確定判決と同一の効力を有しますが(破産法221条1項参照)、非免責債権該当性が争われれば、結局は訴訟手続の中で判断されることになります。

したがって、破産手続で免責許可決定が出たからといって不貞慰謝料を含む不法行為債権が必ず消滅するわけではなく、反対に、破産手続で債権者として扱われたからといって当然に非免責債権と確定するわけでもありません。

6 非免責債権があっても、他の債権は免責されるのか

結論として、あり得ます
非免責債権は、あくまで免責の効力が及ばない個別の債権にすぎず、非免責債権が存在すること自体は免責不許可事由ではありません。そのため、たとえば不貞慰謝料の一部または全部が非免責債権と判断されたとしても、消費者金融・クレジットカード債務・通常の借入金といった他の一般債権については免責される、という帰結はあり得ます。

実際、前掲・東京地判令和3年12月2日は、破産者が負っていた債務が不貞慰謝料債権のほかにはカードローン債権しかなかったという事情を認定していますが、これは害意の有無の判断を左右しないとされています。債権ごとに非免責債権該当性が個別に判断されることの表れといえます。

さらに、免責不許可事由がある場合でも裁量免責が認められることがありますが、その場合でも破産法253条1項各号の非免責債権には免責の効力は及びません。つまり実務上は、次のような結論があり得ます。
不貞慰謝料債権は非免責債権として残る。
しかし、その他の借入金やカード債務は、(裁量免責を含め)免責許可決定により免責される。

7 実務上の注意点

慰謝料を請求する側
不貞慰謝料を非免責債権として主張するには、単に「不貞があった」「相手が既婚者と知っていた」というだけでは足りない可能性が高く、積極的な害意を基礎づける具体的事情の主張・立証が必要です。前掲の裁判例からは、次のような事情が重要になり得ます。

  • 配偶者に対する脅迫・侮辱・暴力など、不貞を超えた直接的な加害行為
  • 過去に不貞をしない旨を誓約したにもかかわらず再度不貞に及んだ事情
  • 婚姻関係を破壊すること自体を目的としていたとうかがわせる言動

非免責債権該当性は免責許可決定後に別途争われることが多いため、破産手続の段階から債権の性質や証拠を整理しておくことが重要です。

慰謝料を請求されている側
不貞慰謝料を請求されている場合でも、自己破産により免責される可能性は十分にあります。もっとも、脅迫・暴力・誓約違反といった事情がある場合や、貞操権侵害をあえて行ったと評価される場合には、非免責債権として支払義務が残る可能性があるため注意が必要です。

なお、非免責債権が含まれているとしても、他の負債の免責を得ざるを得ないケースもあり得るため、非免責債権が含まれていることのみをもって破産を選択しないということにはならない場合もあることには注意が必要です。事案によっては、他の債務の免責を得たうえで、支払の負担を軽減し、非免責債権の返済に向き合うべきケースもあり得ると考えます。

また、慰謝料債権者を債権者一覧表に記載しないことは別のリスクを生みます。破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権は、それ自体が非免責債権となり得るためです(破産法253条1項6号)。「どうせ免責されない」「相手に知られたくない」といった自己判断で記載を省略することは危険です。破産申立てを検討する際は、慰謝料請求の有無、訴訟・和解の有無、誓約書の内容などを弁護士に正確に伝える必要があります。

8 まとめ

不貞慰謝料は、破産において常に非免責債権になるわけではありません。その該当性は、破産法253条1項2号の「悪意で加えた不法行為」、すなわち単なる不貞の故意を超えた積極的な害意が認められるかによって判断されます。

裁判例をみると、不貞期間の長さや発覚後の不貞継続といった事情があっても害意は認められにくい一方、脅迫・暴力・誓約違反、あるいは貞操権侵害をあえて行ったといった、不貞それ自体を超える加害的事情が認定された事例では、非免責債権該当性が肯定されています。また、非免責債権該当性は破産裁判所が当然に最終判断するものではなく、争いがあれば通常の民事訴訟等で判断されるのが原則です。さらに、不貞慰謝料が非免責債権として残る場合でも、他の借入金やカード債務は免責され得ます。

不貞慰謝料と破産が関係する事案では、債権者側・債務者側のいずれにとっても、どのような加害事情があるか、どのような証拠があるかが結論を大きく左右します。早い段階で弁護士に相談し、破産手続と慰謝料請求の双方を見据えた対応を検討することをお勧めいたします。

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