犯罪被害に遭った方やご遺族にとって、刑事裁判は、自分自身の被害や思いがどのように裁判に反映されるのか一見して分かりにくいのが実情です。
そして、かつての刑事裁判では、被害者は証人として呼ばれることはあっても、裁判に主体的に関与できる場面は限られていました。
しかし、現在は、一定の重大な犯罪について、被害者やご遺族等が刑事裁判に参加できる「被害者参加制度」が設けられています。
被害者参加制度を利用することで、被害者やご遺族等は「被害者参加人」として、公判期日に出席したり、法廷で意見を述べたり、一定の範囲で被告人に質問したりすることができます。
このコラムでは、被害者参加制度の内容や弁護士に依頼することによるメリットなどについて解説します。
【目次】
1 被害者参加制度とは
2 被害者参加制度を利用できる事件
3 被害者参加の手続の流れ
4 被害者参加人ができること
5 被害者参加制度でできないこと
6 刑事和解とは
7 損害賠償命令制度とは
8 被害者参加手続を弁護士に依頼するメリット
9 当事務所の被害者参加手続(犯罪被害者支援)に関する弁護士費用
10 まとめ
1 被害者参加制度とは
被害者参加制度とは、一定の重大犯罪について、被害者やご遺族等が、裁判所の許可を受けて刑事裁判に参加できる制度です。
刑事裁判の当事者は、基本的には、検察官と被告人です。
被害者は、民事事件の原告のような立場ではありません。
しかし、犯罪被害者やご遺族にとって、刑事裁判は、事件の真相を知り、被告人の態度や反省の有無を見定める場であるとともに、最大の関心事である量刑判断に関わる重要な手続です。
そこで、一定の事件について、被害者等が単なる傍聴人にとどまらず、刑事裁判に一定程度関与できるようにしたのが、被害者参加制度です。
刑事裁判への参加を許可された被害者やご遺族等を「被害者参加人」といいます。
2 被害者参加制度を利用できる事件
被害者参加制度は、全ての刑事事件で利用できるわけではありません。
対象となるのは、一定の重大な犯罪です。代表例は次のとおりです。
・殺人、傷害、傷害致死など、故意の犯罪行為により人を死亡させたり傷つけたりした事件
・危険運転致死傷、過失運転致死傷などの交通犯罪
・不同意性交等、不同意わいせつなどの性犯罪
・逮捕・監禁事件
・略取、誘拐、人身売買に関する事件
・上記の未遂罪や、これらを含む一定の犯罪
制度を利用できるのは、原則として被害者本人です。
被害者が亡くなった場合や、心身に重大な故障がある場合には、配偶者、直系の親族、兄弟姉妹などの一定の親族が参加できる場合があります。
ただし、対象犯罪に当たる場合でも、当然に参加できるわけではありません。
検察官への申出を経て、裁判所が参加を許可する必要があります。
3 被害者参加の手続の流れ
被害者参加を希望する場合、まず、事件を担当する検察官に対し、刑事裁判への参加を希望する旨を申し出ます。
申出を受けた検察官は、被害者参加に関する意見を付して、裁判所に通知します。
裁判所は、被告人や弁護人の意見も聴いた上で、参加を許可するか判断します。
そのため、被害者参加を希望する場合には、できるだけ早い段階で検察官又は弁護士に相談することが重要です。
公判が進んでから申し出ると、被告人質問や意見陳述の準備が十分にできない可能性があります。
4 被害者参加人ができること
被害者参加人として刑事裁判への参加が許可されると、主に次のようなことができます。
●公判期日に出席できる
被害者参加人は、公判期日に出席することができます。
通常の傍聴とは異なり、法廷内で検察官席の近くに着席することがあります。
ただし、法廷での着席位置、入退廷の方法、遮へい措置、付添いの可否などは、事件の内容や裁判所の判断によって異なります。
●検察官に意見を述べ、説明を求めることができる
被害者参加人は、検察官の訴訟活動について意見を述べたり、説明を求めたりすることができます。
例えば、次のような事項です。
・どの証拠を重視してほしいか
・どの点を公判で明らかにしてほしいか
・被告人の供述のどこに疑問があるか
・求刑に当たり、被害の重大性をどのように考慮してほしいか
もっとも、最終的にどのような立証をするか、どのような論告・求刑をするかは、検察官が判断します。
被害者参加人の意見が必ずそのまま採用されるわけではありません。
●一定の範囲で証人尋問ができる
被害者参加人は、情状に関する証人の供述の証明力を争うために必要な事項について、証人尋問をすることができます。
例えば、被告人側の情状証人が「被告人は深く反省している。」「家族が今後監督する。」などと証言した場合、その内容が具体的か、実効性があるかを確認する質問が考えられます。
ただし、証人尋問は無制限ではありません。
事件の核心部分について、検察官とは別に自由に尋問できる制度ではありません。
●被告人に質問できる
被害者参加人は、意見を述べるために必要と認められる場合、被告人に質問することができます。
ただし、被告人質問も無制限ではありません。
質問の必要性、相当性、審理への影響などを踏まえ、裁判所が質問を制限することがあります。
感情的に責め立てるだけの質問や、事件と関係の薄い質問は認められにくいと考えるべきです。
●事実又は法律の適用について意見を述べることができる
証拠調べが終わった後、被害者参加人は、事実又は法律の適用について意見を述べることができます。
これは、単なる心情の表明ではありません。
証拠に基づいて、被告人の行為の評価、被害の重大性、反省の有無、示談や被害弁償の状況、量刑上重視してほしい事情などを述べる手続です。
もっとも、被害者参加人の意見は、裁判所を法的に拘束するものではありません。
裁判所は、証拠、検察官の主張、弁護人の主張、被告人の事情、量刑相場などを総合して判決を決めます。
5 被害者参加制度でできないこと
被害者参加制度は重要な制度ですが、万能ではありません。
特に、次の点にご留意ください。
●必ず刑が重くなる制度ではない
被害者参加をしたからといって、必ず被告人の刑が重くなるわけではありません。
被害者参加制度は、被害者の意見や被害の実情を裁判に反映させるための制度です。
しかし、量刑は裁判所が証拠と法律に基づいて判断します。
「参加すれば必ず厳罰になる」と考えるのは正確ではありません。
●損害賠償を直接回収する制度ではない
被害者参加制度そのものは、損害賠償を回収する制度ではありません。
刑事裁判に参加し、意見を述べたり質問したりする制度です。
被告人に損害賠償を求める場合には、別途、示談交渉、刑事和解、損害賠償命令制度、民事訴訟などを検討する必要があります。
●被害者が検察官の代わりになる制度ではない
被害者参加人は、一定の訴訟活動ができますが、検察官そのものになるわけではありません。
起訴した事実を立証する中心的な役割は検察官にあります。
被害者参加人は、検察官に意見を述べたり、一定の質問をすることはできますが、手続全体を自由に動かせるわけではありません。
6 刑事和解とは
刑事和解とは、刑事裁判の係属中に、被害者等と被告人との間で、被害弁償や慰謝料の支払いなどについて民事上の合意が成立した場合、その合意内容を刑事裁判の公判調書に記載してもらう制度です。
法律上は、犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置として設けられています。
●刑事和解の利用場面
刑事和解が問題になるのは、たとえば次のような場合です。
・被告人が被害者に慰謝料を支払うことで合意した
・治療費や休業損害の支払いについて合意した
・分割払いによる被害弁償で合意した
・被告人が謝罪し、被害者が一定条件で和解に応じた
・示談書を作成したが、支払義務をより明確に残したい
刑事和解は、被害者参加制度そのものとは別の制度です。
もっとも、被害者参加をしている事件では、被害者側が刑事裁判の進行状況を把握しやすく、示談、被害弁償、和解条件の検討をしやすくなります。
その意味で、被害者参加制度と刑事和解は、実務上、関連して検討されることがあります。
●利用手続
刑事和解制度を利用する要件は、①示談(合意)をしていることを前提に、②当事者双方が共同して、③事件の係属する裁判所に対し、④弁論の終結までに、⑤公判期日に出頭し、⑥合意内容を公判調書に記載することを求める必要があります。
●刑事和解の効果
刑事和解が成立し、その内容が公判調書に記載されると、その記載は、民事上の債務名義と同様に扱われます。
つまり、被告人が約束した金銭を支払わない場合、被害者側は、一定の手続を経て強制執行をすることができます。
通常の私的な示談書だけでは、相手が支払わない場合、原則として民事訴訟等で債務名義を取得する必要があります。
これに対し、刑事和解では、合意内容が公判調書に記載されることにより、支払義務の実効性を高められる場合があります。
●刑事和解の注意点
刑事和解は便利な制度ですが、注意点もあります。
・和解は合意です。被害者側が望んでも、被告人側が応じなければ成立しません。
・被告人に資力がなければ、和解が成立しても実際に回収できない可能性があります。
7 損害賠償命令制度とは
損害賠償命令制度とは、一定の重大犯罪について、刑事裁判で審理された犯罪事実を前提に、同じ裁判所が、被害者の損害賠償請求を審理し、被告人に賠償を命じることができる制度です。
通常、犯罪被害者が加害者に損害賠償を請求する場合、刑事裁判とは別に民事訴訟を起こす必要があります。
しかし、民事訴訟を一から起こすのは、時間的・精神的・費用的に大きな負担がかかります。
損害賠償命令制度は、刑事裁判を担当した裁判所が、刑事記録を踏まえて民事上の損害賠償も判断することで、被害者の負担を軽減することを目的としています。
●損害賠償命令制度を利用できる事件
損害賠償命令制度も、全ての刑事事件で利用できるわけではありません。
対象となるのは、主に次のような犯罪です。
・故意の犯罪行為により人を死亡させたり傷つけたりした罪
・殺人、傷害、傷害致死、強盗致死傷など
・危険運転致死傷など
・不同意性交等、不同意わいせつなどの性犯罪
・逮捕・監禁に関する罪
・略取、誘拐、人身売買に関する罪
・これらの未遂罪など
利用できるのは、被害者本人又はその一般承継人、例えば相続人などです。
●損害賠償命令制度の手続
損害賠償命令の申立ては、刑事裁判が係属している裁判所に対して行います。
損害賠償命令の申立ては、刑事事件の弁論終結までに行う必要があります。
刑事裁判が終わってから、後でこの制度を利用しようとしても間に合わない可能性があります。
刑事裁判で有罪判決が言い渡されると、その後、同じ裁判所が損害賠償命令の審理を行います。
審理は、原則として簡易・迅速に行われます。
裁判所は、刑事記録を取り調べることができるため、被害者側が民事訴訟で一から全ての証拠を提出する場合に比べ、負担が軽減されることがあります。
●損害賠償命令の効果
損害賠償命令が確定すると、民事訴訟で勝訴判決が確定した場合と同様の効力を持ちます。
つまり、被告人が命令どおりに支払わない場合には、被害者側は強制執行をすることができます。
もっとも、命令が出たからといって、当然にお金が回収できるわけではありません。
被告人に財産や収入がなければ、強制執行をしても回収できない場合があります。
この点は、民事訴訟で勝訴した場合と同じです。
●損害賠償命令制度のメリット
損害賠償命令制度の主なメリットは、次のとおりです。
・刑事裁判を担当した裁判所が審理するため、刑事記録を活用しやすいこと
・民事訴訟を一から提起する場合に比べて、被害者の負担が軽くなる可能性があること
・比較的早期に損害賠償について判断を得られる可能性があること
・命令が確定すれば、民事上の債務名義となり、強制執行を検討できること
●損害賠償命令制度の限界
一方で、損害賠償命令制度にも限界があります。
・対象犯罪が限定されています。全ての犯罪被害で使えるわけではありません。
・刑事事件で無罪判決が出た場合などには、制度利用が難しくなります。
・損害額の立証は必要です。
・相手に資力がなければ、命令が出ても回収できない可能性があります。
・複雑な損害額の算定が必要な事件では、通常の民事訴訟に移行することがあります。
8 被害者参加手続を弁護士に依頼するメリット
被害者参加制度は、被害者本人だけでも利用できる場合があります。
しかし、実際には弁護士に依頼するメリットが大きい制度です。
特に、刑事和解や損害賠償命令制度まで見据える場合には、弁護士の関与が重要です。
●検察官との連絡調整を任せられる
被害者参加では、検察官との連携が不可欠です。
弁護士が関与すれば、検察官に対して、被害者側の意向、確認してほしい点、証拠上重視してほしい事情を整理して伝えることができます。
●被告人質問を法的に整理できる
被告人に何を聞くかは、慎重に検討する必要があります。
単に怒りや不満をぶつけるだけでは、裁判所に伝わる質問にはなりにくいです。
弁護士が関与することで、被告人の供述の矛盾をついたり、反省の有無、謝罪の真摯さ、再犯防止策の実効性を確認するなど、量刑上意味のある質問を整理することができます。
●説得力のある意見陳述を作成できる
被害者参加人は、事実又は法律の適用について意見を述べることができます。
この意見は、感情を述べるだけではなく、証拠に基づいて、裁判所にどの事情を重視してほしいかを伝えるものです。
弁護士が関与することで、被害の重大性、被告人の反省状況、示談の有無、再犯防止策、量刑上の評価を整理し、裁判所に伝わりやすい意見にできます。
●刑事和解の条項を適切に設計できる
刑事和解では、金額だけでなく、条項の作り方が重要です。
特に、分割払いの場合には、支払期限、期限の利益喪失、遅延損害金、強制執行を見据えた記載が重要になります。
また、清算条項を入れるかどうか、宥恕文言を入れるかどうかは、刑事処分や将来の民事請求にも関係します。
弁護士に依頼することで、安易に不利な示談をしてしまうリスクを減らせます。
●損害賠償命令制度を使うべきか判断できる
損害賠償命令制度は、被害者にとって有用な制度ですが、全ての事件で最適とは限りません。
相手方に資力があるか、損害額の立証がどこまで可能か、民事訴訟に移行する可能性があるかを検討する必要があります。
弁護士が関与することで、損害賠償命令制度を使うべきか、刑事和解を優先すべきか、別途民事訴訟を提起すべきかを判断しやすくなります。
9 当事務所の被害者参加手続(犯罪被害者支援)に関する弁護士費用
当事務所の被害者参加に関する費用は次のとおりです。
・着手金40万円(税別)
・報酬金20万円(税別)
※事案の難易度や希望される手続の内容によって別途追加金をいただくことがございます。
10 まとめ
これまで述べてきたとおり、被害者参加制度の利用を検討されている場合は、刑事裁判が始まってから慌てて準備するのではなく、起訴前後の段階で早めに弁護士へ相談することで、どの制度を利用すべきか、どのような準備をすべきかを整理できます。
当事務所は、元検察官の弁護士に加え、刑事裁判に関する豊富な知識、経験を有している弁護士が所属しておりますので、まずはお気軽にご相談ください。
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