裁判所に保釈を請求し、保釈許可決定が出れば、本人や家族は「これで釈放される」と考えるのが通常かと思います。

しかし、裁判所が保釈を許可しても、検察官がその判断を不服として準抗告を申し立て、保釈許可決定が取り消されることがあります。

では、一度裁判所が保釈を相当と判断したにもかかわらず、準抗告審はどのような場合にその判断を覆すことができるのでしょうか。

最高裁第二小法廷は、令和8年8月31日、保釈を許可した裁判を準抗告審が取り消した事案について、準抗告審の決定を取り消し、検察官の準抗告を棄却する決定をしました(最高裁令和8年8月31日第二小法廷決定・令和8年(し)第770号)。

今回は、この最高裁決定を題材に、保釈の基本的な仕組み、検察官による準抗告、今回の最高裁決定が保釈実務に与える影響について解説します。

 

【目次】

1 そもそも「保釈」とは

2 保釈が許可されても、検察官が準抗告することがある

3 令和8年8月31日最高裁決定の事案

4 最高裁はなぜ保釈取消しを認めなかったのか

5 今回の最高裁決定は保釈実務にどのような意味を持つのか

6 検察官の準抗告に対し、弁護人はどう対応すべきか

7 本人・家族が保釈請求のために準備できること

8 まとめ

9 当事務所の刑事事件に関する弁護士費用

 

1 そもそも「保釈」とは

保釈とは、起訴された後、勾留されている被告人について、一定の条件の下で身柄を解放する制度です。

保釈には、法律上一定の場合に認められる「権利保釈」(刑事訴訟法89条)のほか、権利保釈の要件を満たさない場合でも、裁判所の裁量によって認められる「裁量保釈」(同法90条)があります。

裁量保釈では、事件の内容だけでなく、罪証隠滅や逃亡のおそれ、被告人の生活状況、身元引受人の有無、保釈条件によってこれらの危険を防止できるかなど、様々な事情が考慮されます。

今回の最高裁決定で問題となったのも、この「裁量保釈」です。

図1 保釈の基本的な流れ

なお、保釈が認められたからといって、無罪になったわけではありません。保釈後も刑事裁判は続き、被告人には裁判への出頭や保釈条件の遵守が求められます。

 

2 保釈が許可されても、検察官が準抗告することがある

裁判官がした保釈に関する裁判については、刑事訴訟法429条に基づく準抗告の対象となります。

したがって、裁判所が被告人の保釈を許可した場合でも、検察官がその判断に不服があるとして準抗告を申し立てることがあります。

準抗告審が検察官の主張を認めれば、保釈許可決定が取り消されることもあります。

図2 保釈許可と検察官の準抗告

ここで問題となるのが、準抗告審がどのような場合に、一度なされた保釈許可の判断を覆すことができるのかという点です。

この問題について重要な判断を示したのが、今回の最高裁決定です。

 

3 令和8年8月31日最高裁決定の事案

被告人は、共犯者と共謀して店舗からぬいぐるみ10点を窃取したとして起訴されました。

これに先立ち、同じ共犯者との同種の窃盗2件についても別の裁判所に起訴されており、こちらについては既に第1回公判が開かれていました。被告人はその事実を認め、検察官請求証拠について全て同意し、証拠調べも行われていました。その後、今回の事件はこれらの事件に併合されています。

そして、別件については、名古屋高等裁判所が、権利保釈は認められないものの裁量保釈が相当であるとして、保証金額を150万円とするなどして保釈を許可していました。

そこで、弁護人は、今回の事件についても、事実関係を争わないことを明示して保釈を請求しました。

原々審は、保証金額を150万円とし、被告人の実家を制限住居とするほか、共犯者との接触を禁止するなどの条件を付けて保釈を許可しました。

これに対して、検察官が準抗告を申し立てたところ、準抗告審は保釈許可決定を取り消し、保釈請求を却下しました。そこで、弁護側が最高裁に特別抗告を申し立てました。

図3 今回の事件の流れ

 

4 最高裁はなぜ保釈取消しを認めなかったのか

今回の決定で特に重要なのが、最高裁が原々審と準抗告審の判断をどのように評価したのかという点です。

原々審は、被告人が共犯者と野宿生活をしながら換金目的の万引きを繰り返していたことなどから、刑事訴訟法89条3号、4号及び6号に該当すると判断しました。

その一方で、①一連の別件では既に認否等が明らかになっており、今回の事件についても被告人が捜査段階で事実を認めているため、実効性のある罪証隠滅に及ぶ現実的可能性は高くないこと、②被告人には前科がなく、父親が保証金を準備して身元引受人となり、帰住先も確保されているため、逃亡のおそれも高くないことなどを考慮し、条件を付ければ裁量保釈が相当と判断したものとされています。

これに対して、準抗告審は、今回の事件ではまだ公判での認否が行われていないことなどから、共犯者と通謀して罪証を隠滅するおそれを否定できないとして、保釈許可を取り消しました。

しかし、最高裁は、この判断を認めませんでした。

最高裁が特に問題としたのは、準抗告審が、今回の事件が「第1回公判期日前」であるという形式的な理由を示すだけで、被告人が実効的な罪証隠滅に及ぶおそれの程度が高いとみるべき実質的な理由を示さなかったことです。

また、保証金や共犯者との接触禁止等の保釈条件によっても担保できないほど逃亡のおそれが高いとみるべき理由も示されていないと指摘しました。

そのため最高裁は、準抗告審の決定は、裁量保釈を許可した原々審の判断が不合理であることを具体的に示したものとはいえないと判断しました。そして、準抗告審の決定には刑事訴訟法90条、426条の解釈適用を誤った違法があるとして、その決定を取り消し、検察官の準抗告を棄却しました。

図4 原々審・準抗告審・最高裁の判断比較

 

5 今回の最高裁決定は保釈実務にどのような意味を持つのか

今回の最高裁決定で重要なのは、裁量保釈を認めた原々審の判断を準抗告審が取り消すためには、原々審の判断が不合理であることを具体的に示す必要があるとした点です。

今回、準抗告審は、被告人について罪証隠滅のおそれがあるとして、原々審の保釈許可決定を取り消しました。

しかし、最高裁は、今回の事件が「第1回公判期日前」であるという形式的な理由を示すだけでは、原々審の判断を覆す理由として十分ではないと判断しました。

本件では、被告人が捜査段階から事実を認めていたことや、関連する事件では既に公判が開かれて証拠調べも行われていたことなど、罪証隠滅のおそれを判断するための具体的な事情がありました。

また、被告人には前科がなく、父親が身元引受人となり、帰住先が確保されていたほか、保証金や共犯者との接触禁止といった保釈条件も設定されていました。

そのような事情があるにもかかわらず、準抗告審は、被告人が実効的な罪証隠滅に及ぶおそれが高いと判断すべき実質的な理由や、保釈条件を付けても逃亡を防止できないと判断すべき理由を具体的に示していませんでした。

そこで、最高裁は、準抗告審の決定について、裁量保釈を認めた原々審の判断が不合理であることを具体的に示したものとはいえないと判断しました。

この最高裁決定からは、保釈許可決定に対する準抗告では、単に罪証隠滅や逃亡のおそれがあると指摘するだけではなく、事件の具体的な状況や設定された保釈条件を踏まえてもなお、原々審が保釈を認めた判断が不合理であるといえるかが重要になると考えられます。

したがって、弁護人が保釈を請求する際にも、罪証隠滅や逃亡のおそれについて抽象的に否定するだけではなく、認否、証拠調べの進行状況、被害者・共犯者との関係、帰住先、身元引受人などの具体的な事情を示すことが重要です。

さらに、接触禁止や住居制限などの保釈条件を設定することによって、罪証隠滅や逃亡のおそれを現実的に防止できることを具体的に示すことも重要になります。

 

6 検察官の準抗告に対し、弁護人はどう対応すべきか

ここで注意が必要なのは、検察官が保釈許可決定に準抗告した場合、弁護人に準抗告申立書が当然に送付され、一定期間内に反論する機会が法律上当然に保障されているわけではないということです。

そのため、「まず保釈許可を得て、検察官が準抗告したら改めて反論すればよい」という考え方では十分ではありません。

むしろ、当初の保釈請求の段階から、検察官がどのような理由で保釈に反対する可能性があるのかを想定し、それに対応する事情を具体的に示しておくことが重要です。

例えば、罪証隠滅のおそれについては、認否や証拠調べの状況、被害者や共犯者との関係、接触禁止条件によって危険を防止できることなどを検討します。

逃亡のおそれについても、保釈後の住居、仕事や家族関係、身元引受人による監督、保証金などの事情を具体的に示すことが考えられます。

図5 準抗告を見据えた保釈請求

もちろん、検察官による準抗告を把握し、準抗告審の判断前に意見書等を提出できる状況であれば、その提出を検討することは考えられます。

しかし、裁判所が弁護人の反論を待ってから判断することが法律上保障されているわけではありません。

その意味でも、保釈請求書を作成する段階から、検察官の反対意見や準抗告まで見据えて主張を組み立てることが重要です。

 

7 本人・家族が保釈請求のために準備できること

保釈の判断では、事件そのものだけでなく、保釈後の生活環境も重要になります。

本人や家族としては、弁護人と相談しながら、保釈後に生活する住居を確保する、適切な身元引受人を決める、家族による監督体制を整える、仕事や学校など保釈後の生活状況を説明できるようにする、被害者や共犯者等と接触しない環境を作る、保釈保証金を準備するといった対応が考えられます。

もっとも、どのような事情が重要になるかは事件によって異なります。

特に共犯事件や否認事件では、罪証隠滅のおそれが大きな争点となることがあるため、事件の内容に応じた具体的な準備が必要です。

 

8 まとめ

令和8年8月31日の最高裁決定は、一度認められた保釈が検察官の準抗告によって取り消された事案について、準抗告審の決定を取り消し、検察官の準抗告を棄却しました。

最高裁が重視したのは、準抗告審が、罪証隠滅や逃亡のおそれについて実質的な理由を示さず、原々審の裁量保釈の判断が不合理であることを具体的に示していなかった点です。

また、実際の保釈弁護では、検察官が準抗告した後に十分な反論機会が当然に与えられるとは限りません。

そのため、保釈を求める場合には、当初の保釈請求の段階から、罪証隠滅や逃亡のおそれについて具体的に検討し、検察官による反対意見や準抗告まで見据えて主張・疎明を行うことが重要です。

 

9 当事務所の刑事事件に関する弁護士費用

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